令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
地理総合,地理探究

2022年11月10日掲載

出題の特徴

難民問題など国際的な関心事から、防災、自然環境、産業、地誌、地理探究で扱われる日本の国土像を視野に入れた地域調査まで幅広く取り上げた、地理学習の到達度を問う出題である。

大問数は6で、現行の大学入学共通テスト「地理B」の大問数より1つ多い。6つの大問のテーマは、難民問題、自然環境と防災、世界と日本の自然環境、人や物、情報の移動からみた産業、アフリカ地誌、地方中核都市X市を事例とした、持続可能なまちづくりの探究である。各大問とも図表、地図、ポスター、模式図、写真、会話文を多用している。また、図表には受験生の多くが知らない文献からのものが多く見られた。

問題構成

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 12 4 難民問題 標準
第2問 13 4 自然環境と防災 標準
第3問 17 5 世界と日本の自然環境 やや難
第4問 17 5 人や物、情報の移動からみた産業 標準
第5問 17 5 アフリカ地誌 やや難
第6問 24 7 地方中核都市X市を事例とした持続可能なまちづくりについての探究 標準

問題分析

問題量

大問数は6で、2022年度の大学入学共通テスト本試験「地理B」より1つ多いが、マーク数は30で1つ少ない。大問の冒頭の問題文、小問の図、表、写真、選択肢表などの文字を除いた、設問文および選択肢の文字数は約1万1000字程度で、2022年度の大学入学共通テスト本試験「地理B」より約1000字多い。問題文を迅速に読み、判断することが求められる。

出題分野・内容

出題分野は、難民問題、自然環境と防災、世界と日本の自然環境、産業、地誌、地域調査の6つで各大問が構成されている。6大問中、第1問と第2問は地理総合に、第3問から第6問は地理探究に割り当てられている。第1問は難民問題、第2問は自然環境と防災、第3問は世界と日本の自然環境、第4問は産業、第5問はアフリカ地誌、第6問は地方中核都市X市を事例とした持続可能なまちづくりについての探究である。なお、第6問のX市は広島県福山市であると推測される。

出題形式

4つの文の正誤判定問題は4問、文の下線部の4択正誤判定問題は5問、2項目4択の組合せ問題は6問、3項目6択の組合せ問題は5問、3項目8択の組合せ問題は1問、図中の4択問題は4問、2項目の6択選択問題は3問、2項目の9択選択問題は2問である。また、表中の4択問題と語句の4択問題は出題されなかった。

難易度(全体)

2022年度の大学入学共通テスト地理Bと比べて大きな変化はない。現行の大学入学共通テストと同じく、図表、地図、写真、会話文などを多用しており、各小問の出題趣旨を受験生に理解させたうえで解答させるための工夫がなされている。全体に解答に苦慮するような難問は少なく、科目名通り、「地理総合」と「地理探究」を網羅的に学習していれば高得点が狙える。

設問別分析

第1問(12点満点)

配点 出題内容
12 難民問題

分析コメント

地理総合から難民問題に関する問題である。問1は世界の難民の数と受入れ数に関する図をみて会話文中の誤りを含むものを判定する問題で、ドイツとウガンダのGDPを考慮する。問2はコンゴ民主共和国における紛争鉱物の1つであるタンタルの産出と利用に関する問題で、最終製品に近づくほど紛争鉱物が含まれているかわかりにくくなることを想起する。問3はイタリア、オーストラリア、ザンビアの難民の受入れ状況と受入れ数に関する問題で、ア~ウの文章中の年号と図2の対応などに注目する。問4は難民をめぐる現状や課題について,高校生が作ったポスターの空欄の語句を補充する平易な問題である。

第2問(13点満点)

配点 出題内容
13 自然環境と防災

分析コメント

地理総合から自然環境と防災に関する問題である。問1は1990年以降に発生した地震の震央の図を見て適当な文を選ぶ問題で、消去法で答えを絞り込む。問2は旧河道の広がる平地の地形と災害リスクの図を見て適当でない説明を選ぶ問題で、河川地形についての基本的な知識で解答できる。問3は自然災害伝承碑の碑文を読んで実際にその自然災害が起きた地域の地図を選ぶ問題で、「海潮」や「田畑」に注目する。問4は2つの天気図ごとに発生しやすい自然災害とその被害を軽減する構造物の組合せを選ぶ問題で、天気図の出題は珍しいが、停滞前線や西高東低の気圧配置を読み取りたい。

第3問(17点満点)

配点 出題内容
17 世界と日本の自然環境

分析コメント

地理探究から世界と日本の自然環境に関する問題である。問1のハイサーグラフの概形に関する問題は、月平均降水量が年間を通じて変化が小さい地点を選ぶ。問2の地形の名称と形成時期を問う問題は、海水面の変化と地形の形成に関する知識をもとに、各図を慎重に検討する。問3の世界の気候に関する3つの図を読み取る問題では、気候要素、気候因子の理解が問われた。問4は植物化石から過去の気候を推定する問題で、見慣れない図であるが読解は容易である。問5は自然環境と人間社会の関係性に関する問題で、人間社会がどのように自然環境に影響を与え、また、どのように自然環境から恩恵を受けているかを考える。

第4問(17点満点)

配点 出題内容
17 人や物、情報の移動からみた産業

分析コメント

地理探究から人や物、情報の移動からみた産業に関する問題である。問1は3か国の生食用ブドウの輸入先に関する問題で、現代では距離の遠い国からの輸入も増えているものの、距離の近い国からの輸入が上位に入ると判断する。問2の地域間の貿易額に関する問題は、EU域内の貿易が多いこと、アメリカ合衆国の貿易赤字が大きいことを考える。問3の製紙・パルプ工場の立地に関する問題は、都心部は平均賃金が高いことを考えれば容易である。問4の4つの都道府県間を移動する際の交通手段に関する問題は、都市間の距離から判断する。問5の国際データ通信量に関する問題は、図表を正確に読み取り正解を導きたい。

第5問(17点満点)

配点 出題内容
17 アフリカ地誌

分析コメント

地理探究からアフリカ地誌の問題である。アフリカの周辺地域や日本についても問われている。問1は乾燥指数と農業の特徴から、チュニジア、エジプト、ニジェールの3地点のうちニジェールのものを選ぶ問題で、乾燥指数の資料は見慣れないが読解は容易である。問2は焼畑に関する資料の空欄の語句を補充する問題で、日本の事情についても考慮する必要がある。問3はアフリカとその周辺地域の宗教と母語が属する語族の分布に関する問題で、イランやトルコなどに注目する。問4はアフリカの4か国の貿易相手国に関する問題で、北アフリカとヨーロッパの距離やアンゴラの原油輸出を想起する。問5はアフリカの人口問題に関する会話文の空欄の語句補充の問題で、基本的な知識で解答できる平易な問題である。

第6問(24点満点)

配点 出題内容
24 地方中核都市のX市を事例とした持続可能なまちづくりの探究

分析コメント

地理探究から地方中核都市のX市を事例とした持続可能なまちづくりの探究に関する問題である。従来の大学入学共通テストと異なり地域調査の対象地域が明言されていないが、広島県福山市と推測される。問1はX市の3地区の説明と人口に関する指標についての問題で、単身世帯はアパートやマンション、年少人口は新興住宅地に多いと考える。問2は2つの地域の空き家の状況に関するグラフと説明文の読解問題で、市街地周辺には集合住宅が多く、山地が広がる地域は過疎化などで長期間放置された空き家が多いと考える。問3は聞き取り調査の結果から調査対象の地区を判定する問題で、調査結果と3つの地図を正確に見比べれば解答できる。問4はX市の交通渋滞とその対策に関する問題で、平易な図の読解問題である。問5はスウェーデンのある都市のまちづくりに関する問題で、地域調査の問題で国外の事例を出題するのは目新しいが、パークアンドライドの趣旨を理解していれば容易である。問6は奈良県と福岡県の平均通勤時間と持ち家住宅率に関する問題で、奈良県は大阪府などに通勤する人が多いものの、大都市よりも持ち家の人が多いと考える。問7は持続可能なまちづくりに関する問題で、地方創生やコンパクトシティなどについて理解を深めておきたい。

学習アドバイス

今回の大学入学共通テストの試作問題は、2021年度、2022年度の大学入学共通テストと大きく難易度に変化はなかったものの、一部に判断に迷う問題が見られました。高得点を取るには確実な知識をもとに平易な問題を素早く解き、難しい問題に時間をかけて取り組んで、解答を導き出す必要があります。そのためにはまず教科書、資料集などをしっかり読み、問題集を解くことで系統地理、地誌の基礎知識を身につけましょう。このとき、知識同士の因果関係や対比などに注意して情報を整理し、ノートなどにまとめるとよいでしょう。地名や統計データに関しては、地図帳や統計集を確認することを忘れないようにしましょう。さらに、ニュースなどを確認し国内外の最新の情報を手に入れるとともに、インターネットの画像検索などを用いて視覚的な理解を深めるとよいでしょう。

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