令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
歴史総合,日本史探究

2022年11月10日掲載

出題の特徴

第1問が歴史総合、第2問以降が日本史探究から出題され、全大問で生徒による調べ学習や発表といった形式をとる。史資料の読み取り問題は豊富だが、従来の日本史の知識で設問の多くに対応可能。

第1問では環太平洋地域という世界史的なテーマが設定され、設問も世界史との融合が見られた。ただ、日本に関係するところを取り上げて作題されているため、日本史をしっかりと押さえていれば対応可能なものが多かった。第2問~第6問は日本史分野のみからの出題で、現行の共通テスト『日本史B』と設問形式はやや異なるものの、問題レベルに大きな差異はないと言える。

問題構成

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 25 9 【歴史総合】 環太平洋地域における人やモノの移動 標準
第2問 15 5 【日本史探究】学びの歴史(古代~近現代の社会・文化) 標準
第3問 15 5 【日本史探究】藤原京の時代の特徴(古代の政治・文化) 標準
第4問 15 5 【日本史探究】中世社会における様々な権力による対立・紛争の解決方法(中世の政治・社会) 標準
第5問 15 5 【日本史探究】江戸時代の大坂(近世の政治・社会・文化) 標準
第6問 15 5 【日本史探究】地域の資料を通した近現代史の学習(近現代の政治・経済・文化) 標準

問題分析

問題量

現行の共通テスト『日本史B』から問題数が2問増加した。図・表などの視覚資料や文字史料の分量が多かったが、文字史料の中には現代語訳されているものも多かった。

出題分野・内容

  • 第1問が歴史総合、第2問~第6問が日本史探究からの出題。
  • 第2問は日本通史、第3問は古代、第4問は中世、第5問は近世、第6問は近現代という構成。
  • 第1問は歴史総合のため、対外関係史(外交史)が中心。第2問以降は、政治・経済・社会・文化史などがバランスよく出題された。

出題形式

  • 現行の共通テストと同様に、視覚資料や文字史料のほか、登場人物が作成したもの(メモなど)を読解・分析することを要求する問題が多く見られた。
  • 第1問では、リード文中の空欄補充と、下線部に関連した正誤判定を組み合わせた問題が出題された。
  • 「事柄」と「関連する文」、「疑問」と「最も適当と考えられる方法」といった、対応する文同士を組み合わせる問題が見られた。

難易度(全体)

歴史総合の大問(第1問)では世界史の知識はさほど求められず、全大問の設問一つ一つについては標準的な難易度の問題が多かった。しかし、読解・分析が必要な視覚資料や文字史料などは現行の共通テストと同程度かそれ以上の分量となり、また設問数も2問増えているため、60分の制限時間内で全てを解答し終えるのは相当苦労すると思われる。以上より、総合的に考えれば、現行の共通テストと同程度の難易度と言える。

設問別分析

第1問(25点満点)

配点 出題内容
12 19世紀の交通革命による世界の一体化の進行
B 13 環太平洋地域における人の移動

分析コメント

「環太平洋地域における人やモノの移動」をテーマとした、歴史総合からの出題。半分程度が世界史との融合問題であるが、日本史に関わる知識がある程度あれば解答できる。問1はペリー来航の背景と結果についてであり、下線部の文章とともに、開国に関する内容として押さえておきたい。問3の空欄イについて。上海をはじめとする東アジアの重要な場所については、地図上の位置の把握も必要である。問4の正解である④は、日本史の中でもやや細かい内容。問5は各選択肢と地図上の航路を照合しながら考える。④の正誤は世界史の知識がないと判断できないだろうが、正解は選べるだろう。問6の「い」は、明治時代末期の桂・タフト協定の内容を押さえていればそれがヒントになるか。問9は本問の総括的な問題で、2つの課題とそれぞれに有効な資料を組み合わせるという、探究活動を目的とした歴史総合らしい出題となっている。

第2問(15点満点)

配点 出題内容
15 古代~近現代の社会・文化

分析コメント

「学びの歴史」を主題とした古代から現代までのテーマ史で、会話文形式をとる。問1と問3は史料読解問題であるが、史料がいずれも現代語訳され、現行の共通テストよりも史料読解の負担が軽減されている。問2は知識問題だが、「上級貴族の子弟が大学に入学しなかった理由」という、ややひねった問い方がなされた。問4は空欄補充形式で、戦後に設立された機関を選ぶ空欄イはやや細かい。問5は絵巻・写真を素材としているが、設問の内容自体は易しい。

第3問(15点満点)

配点 出題内容
15 古代の政治・文化

分析コメント

藤原京の時代の特徴を考察するというテーマで、古代の政治制度や文化が問われた。木簡についての解説文、都城の分布地図、生徒3人のメモ、まとめのポスターなど、膨大な資料が提示されており、それらの内容把握に時間がかかる。問1はメモも付されているが、基本的には純粋な地図の読み取りである。問2(2)の「あ・い」は、藤原京に遷都された694年と大宝令が制定された701年という年代の知識から単純に考えると判断を誤る可能性があり、解説シートの読解が不可欠である。問3は知識で解ける問題で、メモの情報は不要である。問4も第3問全体の総括という形式をとるが、正誤判定のポイントは結局、運脚についての知識にある。

第4問(15点満点)

配点 出題内容
A 9 鎌倉時代の政治・社会
B 6 室町~江戸時代の政治・社会

分析コメント

4つの資料を基にした探究学習に沿った出題。主に中世を中心とするが、古代および近世との接続を意識した出題も見られた。問1は空欄補充形式で、図版資料についての考察が求められた。空欄イの鎮護国家は古代で学習する用語であるが、会話文中に「古代との連続性」とあることにも注目して、時代にとらわれずに解答する必要がある。問4は資料4が現代語訳ということもあり、正誤判断にはやや国語的要素が強い。問5は中世から近世の権力の変化についての問題。④の後半部の江戸幕府によるキリスト教禁止は正しいだけに、前半部の戦国大名に関する記述の誤りを見抜けるかどうかがポイントになる。

第5問(15点満点)

配点 出題内容
15 近世の政治・社会・文化

分析コメント

江戸時代の大坂をテーマとして、表や図版を含む資料と、それらについて考察したメモを基にした出題。問1は表についての読み取りと考察。空欄イは大坂の人口増加の背景に目を向けさせるものだが、判断のポイントは田沼政治の時期の把握にある。問2の④の判断には、武士が米を換金して生活していたことを理解しておく必要がある。問3は、図版資料を用いて琉球使節に関する基本的な知識が問われている。問5は、陽明学に関して内容や著書などやや細かい知識が問われた。「い」は国学の説明。江戸時代の学問についてはよく整理しておく必要がある。

第6問(15点満点)

配点 出題内容
15 近現代の政治・経済・文化

分析コメント

地域の資料を通して日本の近現代史を学ぶというテーマで、明治時代から戦後までの広い範囲が問われている。問1は、読み取りをしながら知識を対応させていく問題。特に、④の「大久保利通の暗殺事件」(紀尾井坂の変)が西南戦争よりも後という判断は難しい。問2は設問の年代に着目して、「町村の教育費が増加した理由」というところがヒントになる。問3は「え」の「山東出兵」の誤りに気づけるか。問4は疑問とそれに対応する方法を見つけさせる、日本史探究らしい問題。設問文にある「第二次世界大戦直後」をヒントにし、さらにそれぞれの疑問から方法Xの「日本の防衛に寄与する」とYの「公職追放」が誤りとわかる。問5は模式図というものが使われているものの、それぞれの年代の出来事を考えていけば解答を導ける。

学習アドバイス

今回の試作問題は、現行の共通テストと同様に、視覚資料や文字史料などを用いた読み取り問題が多数出題され、歴史総合や日本史探究の科目特性が明確に示されています。こうした問題は解答に時間がかかるので、試験本番までに慣れていおかないと、制限時間内に全ての問題に自信を持って解答することが困難になってしまいます。したがって、2024年度までの試験問題(日本史B)などを用いながら、史資料問題の対策を進めておくのがよいでしょう。一方で、知識を直接的に問う問題が見られることにも注意を払う必要があります。いずれにせよ、歴史総合および日本史探究の学習については、教科書を主軸とした学習が基本となります。その上で、知識の習得(暗記)に終始するのではなく、歴史用語の周辺情報(「事件」であれば、発生の時期・背景・結果・影響といったもの)も合わせて理解しておきましょう。また、歴史総合については、日本と世界との関わりを重視した学習が必要になります。それは単に、教科書に載っている国際条約の内容や世界地図などを見ておけばよいものではなく、移民問題など、現代でも国際的に問題となっているような事柄に関心を持つべきだということです。そうすれば、実際にテーマとして扱われても焦ることなく対応できるでしょう。なお、今回の第1問 問9や第6問 問4のような問題を踏まえると、高校の授業での探究活動の経験が解答に生かされる可能性もあるので、そうした活動にも積極的に取り組みましょう。

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