令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
地理総合,歴史総合,公共

2022年11月10日掲載

出題の特徴

各科目とも知識と資料読解を織り交ぜた出題がなされた。

【地理総合】
テーマは、難民問題、自然環境と防災、生活文化の多様性、地域調査。各大問とも図表や地図が多用された。例えば、第3問の資料1中の中国における四合院建築の図という多くの受験生が知らない図を示して、中庭の面積と所在地の緯度との関係を考察させるなど、意欲的な出題が見られた。

【歴史総合】
世界史と日本史を融合させる初の試みとして生まれた科目であるが、日本史探究との共通問題では日本史の内容が、世界史探究との共通問題では世界史の内容が重視された。本試験などもこの傾向が続くかは不明瞭である。

【公共】
出題形式は現行課程の共通テスト「現代社会」から大きな変化なし。単純な4択の選択問題は出題されず、習得した知識を活かした読解・読み取り問題の出題が中心であった。また、必要な知識も基礎的・基本的なものが多かった。

問題構成

【問題構成:地理総合】

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 12 4 難民問題 標準
第2問 13 4 自然環境と防災 標準
第3問 13 4 生活文化の多様性 標準
第4問 12 4 栃木県宇都宮市と芳賀町の地域調査 標準

【問題構成:歴史総合】

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 25 9 環太平洋地域における人やモノの移動 標準
第2問 25 9 人々の接触と他者認識 標準

【問題構成:公共】

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 13 4 多様性と共通性(公共総合) 標準
第2問 12 4 政治の仕組みと政治参加(政治分野) 標準
第3問 13 4 個人と社会全体の経済活動との関連(経済分野) やや難
第4問 12 4 課題探究活動「人口減少社会の在り方」(公共総合) やや難

問題分析

問題量

設問数は地理総合が16、歴史総合が18、公共が16であった。いずれの科目も読むべき資料の数が多く,時間は不足気味になると思われる。

出題分野・内容

【地理総合】
出題分野は、世界的な関心を持たれている課題、自然環境と防災、生活文化の多様性、地域調査の4つで各大問が構成されていた。第1問・第2問は「地理総合,地理探究」との共通問題。

【歴史総合】
科目の内容の通り、日本史・世界史の近現代史からの出題であった。特に日本史と世界史の接点からの出題が目立った。第1問は「歴史総合,日本史探究」との、第2問は「歴史総合,世界史探究」との共通問題。

【公共】
第1問は「公共」の導入になるような多様性と共通性がテーマ。第2問は政治分野、第3問は経済分野の出題。第4問は課題探究活動がテーマ。第1問・第4問は「公共,倫理」および「公共,政治・経済」との共通問題。

出題形式

出題形式は現行の共通テスト「地歴公民」から大きな変化は無かった。4択の正誤判定問題と、正しいものの組合せを選択する問題が中心である。

難易度(全体)

総合的に見て、標準的な難易度。いずれの科目も要求される知識水準は高くない。一方で読解すべき資料が多く、文章だけでなくグラフや図版の読解力が求められる。慣れてなければ時間不足に陥る可能性がある。

設問別分析

【説問別分析:地理総合】

第1問(12点満点)

配点 出題内容
12 難民問題

分析コメント

難民問題に関する問題である。問1は世界の難民の数と受入れ数に関する図をみて会話文中の誤りを含むものを判定する問題で、ドイツとウガンダのGDPを考慮する。問2はコンゴ民主共和国における紛争鉱物の1つであるタンタルの産出と利用に関する問題で、最終製品に近づくほど紛争鉱物が含まれているかわかりにくくなることを想起する。問3はイタリア、オーストラリア、ザンビアの難民の受入れ状況と受入れ数に関する問題で、ア~ウの文章中の年号と図2の対応などに注目する。問4は難民をめぐる現状や課題について,高校生が作ったポスターの空欄の語句を補充する平易な問題である。

第2問(13点満点)

配点 出題内容
13 自然環境と防災

分析コメント

自然環境と防災に関する問題である。問1は1990年以降に発生した地震の震央の図を見て適当な文を選ぶ問題で、消去法で答えを絞り込む。問2は旧河道の広がる平地の地形と災害リスクの図を見て適当でない説明を選ぶ問題で、河川地形についての基本的な知識で解答できる。問3は自然災害伝承碑の碑文を読んで実際にその自然災害が起きた地域の地図を選ぶ問題で、「海潮」や「田畑」に注目する。問4は2つの天気図ごとに発生しやすい自然災害とその被害を軽減する構造物の組合せを選ぶ問題で、天気図の出題は珍しいが、停滞前線や西高東低の気圧配置を読み取りたい。

第3問(13点満点)

配点 出題内容
13 生活文化の多様性

分析コメント

生活文化の多様性に関する問題である。問1は資料中の文章から寒い地域では中庭、暑い地域では半屋外空間が広くなると判断する。問2はイスラーム法で飲酒が禁止されていることから容易に判断できる。問3は羊の分布が中国東北部などにあることなどから、明らかにサバナ気候の分布とは一致しない。問4はヤシの葉や牛肉、牛レバーに注目し、冷涼な都市やインドは適当でないと判断する。

第4問(12点満点)

配点 出題内容
12 栃木県宇都宮市と芳賀町の地域調査

分析コメント

栃木県宇都宮市と芳賀町の地域調査である。問1は写真から県庁付近、人口集中地区の境界付近、工業専用地域の景観を判断する問題で容易である。問2の新旧地形図の読み取りも難しくない。Eは同心円状の部分が誤り。FとGは正文である。問3は宇都宮市の第2次産業就業者数は1990年以降大きく変化していないことから、製造業の雇用が大きく増加しているとは考え難い。問4は図5の2つの統計地図においてライトレールの位置が若干ずれているが、卸売・小売業従業者数、老年人口率がともに高位である地区を選べばよい。

【設問別分析:歴史総合】

第1問(25点満点)

配点 出題内容
A 12 19世紀の交通革命による世界の一体化の進行
B 13 環太平洋地域における人の移動

分析コメント

「環太平洋地域における人やモノの移動」をテーマとした出題。問1はペリー来航の背景と結果についてであり、下線部の文章とともに、開国に関する内容として押さえておきたい。問3の空欄イについて、上海をはじめとする東アジアの重要な場所は地図上の位置も把握しておきたい。問4の正解である④はやや細かい内容。問5は各選択肢の年代と地図上の航路を照合しながら考える。ポーツマス条約の年号と内容を知っていれば容易。問9は本問の総括的な問題で、2つの課題とそれぞれに有効な資料を組み合わせるという、探究活動を目的とした歴史総合らしい出題となっている。

第2問(25点満点)

配点 出題内容
A 9 19世紀のアジアと欧米の接触
B 7 戦争時のナショナリズムや他者イメージ
C 9 大阪万博に関する社説

分析コメント

問1は生麦事件を想起して解答したい。問2は読解問題。領事裁判権についての知識を想起すれば解きやすい。問3は近現代世界各国の知識問題。問4は連動式の問題。内容はほぼ近代ヨーロッパに関する知識問題。問5はナショナリズムの現れ方とその具体例に関する問題。近代日本および世界に関する知識と、ナショナリズムに関する考察力が求められた。ただし、ナショナリズムについて理解できていれば、細かい知識がなくても、正解を推測することができるだろう。問6、大阪万博当時の社説の読解問題。当時の日本および世界に関する知識も求められた。問7は現代世界に関する知識問題。問8、1970年以降の発展途上国と日本との関係についてのグラフ問題。グラフの読解力と現代の日本および世界に関する知識が求められた。

【設問別分析:公共】

第1問(13点満点)

配点 出題内容
13 多様性と共通性

分析コメント

「多様性と共通性」をテーマとした出題。「公共,倫理」、「公共,政治・経済」の第1問との共通問題。問1は会話文中で生徒が想起している哲学者の考えを選ぶ問題。問い方がやや回りくどいが、カントについての基本的な知識があれば解答は容易である。問2は多様性を尊重するための改善・工夫が、どの法令の施行・改定と関連があるか選ぶ組合せ問題。示された3つの法令それぞれの知識は必要ない。問3は架空のSDGsに関するイベントの企画案を読み、そのイベントがSDGsのどの目標の達成を目指しているのか選ぶ組合せ問題。問4は現行の民法の規定についての知識問題。3つの選択肢から正しいものをすべて選ばせる形式な上、細かい知識が必要なため、やや難しい。

第2問(12点満点)

配点 出題内容
12 政治の仕組みと政治参加

分析コメント

「政治の仕組みと政治参加」をテーマとした出題。問1は授業内で先生が日本の政治の仕組みと政治参加についてまとめた内容から、政治制度とその根底にある政治思想との関係を見いださせる問題。政治分野の設問では、制度の知識など表面的な出題にとどまるものが多いので,そこを掘り下げたこの設問は際だったものに見える。問2は国民の意思を政治に反映させるための制度についての知識問題。形式的にも必要な知識的にも易しい。問3は政党と国民及び政府との関係についての記述を分類する組合せ問題。問4は模擬選挙で生徒がとった投票行動が、示された「有権者の投票行動を説明する理論的観点」のいずれかに当てはまるか否かを選ぶ問題。投票行動・理論的観点のいずれも丁寧な読み取りが必要になる。

第3問(13点満点)

配点 出題内容
13 個人と社会全体の経済活動との関連

分析コメント

「個人と社会全体の経済活動との関連」をテーマとした出題。問1はロードプライシングという施策についての会話文中の生徒の発言を、帰結主義と非帰結主義に分類する問題。丁寧な読み取りが必要とされ、やや難しい。問2は架空の3つの事例が、問題文で説明された「合成の誤謬(ごびゅう)」にそれぞれ当てはまるか否かを選ぶ問題。授業でまず扱われないであろう用語なので、こちらも問題文・事例の丁寧な読み取りと考察が必要。問3はグラフからある時期の国民所得の減少を読み取り、その時期に行われるポリシー・ミックスの手続きと期待される効果について考察する問題。求められる知識としては易しい。問4は電子マネーや暗号資産(仮想通貨)の登場とハイエクの思考実験を題材に、通貨発行機関の役割について考察する問題。内容的に新しく、意欲的な出題であったが、選択肢に出題ミスがあった。

第4問(12点満点)

配点 出題内容
12 課題探究活動「人口減少社会の在り方」

分析コメント

「課題探究学習『人口減少社会の在り方』」をテーマとした出題。「公共,倫理」、「公共,政治・経済」の第2問との共通問題。問1は児童手当について、アリストテレスの言う配分的正義・全体的正義を用いて考察する組合せ問題。問2は示された散布図を正確に読み取った上でなされた正しい発言を選ぶ問題。散布図を用いた出題は過去にもあまり見られず、相関関係や因果関係が選択肢に出てくるので、やや難しい。問3はグラフから各国の高齢化率と社会支出の対GDP比の変化を読み取り、今後の日本における社会保障のあり方を構想する問題。グラフがやや読み取りにくい。問4は高齢者がよりよい生活を送るためにはどのような施策が考えられるかというテーマの会話文中の空欄に入る文を選ぶ問題。空欄の前後の読み取りが適切に出来れば、解答は容易である。

学習アドバイス

【地理総合】
大学入学共通テスト地理総合のサンプル問題は、解答困難な難問は見られなかったものの、一部に判断に迷う問題がみられました。高得点を取るには確実な知識をもとに平易な問題を素早く解き、難しい問題に時間をかけて取り組んで、解答を導き出す必要があります。そのためにはまず教科書、資料集などをしっかり読み、問題集を解くことで系統地理、地誌の基礎知識を身につけましょう。このとき、知識同士の因果関係や対比などに注意して情報を整理し、ノートなどにまとめるとよいでしょう。地名や統計データに関しては、地図帳や統計集を確認することを忘れないようにしましょう。さらに、ニュースなどを確認し国内外の最新の情報を手に入れるとともに、インターネットの画像検索などを用いて視覚的な理解を深めるとよいでしょう。

【歴史総合】
歴史総合では、基礎的な知識を問う問題と多種多様な資料を読解させる問題が織り交ぜて出題されています。したがって、まずは教科書や学校の授業でとったノートを用いて基礎的な知識を習得しましょう。特に世界と日本の接点となっている部分を重点的に学習しておくと、出題頻度が高くて効果的だと推測されます。また、資料読解の問題は学校での調べ学習やレポート作成を念頭に置いた作問になっていると思われるので、それらにもよく取り組んでおくと解答を導き出しやすくなると思われます。

【公共】
「現代社会」が廃止され、「公共」が新設されましたが、学習する内容が大きく変わることはありません。本試験でも政経分野を中心に、環境・資源・人口、青年期、文化、社会など多様な分野から出題されることが予想されます。比重の大きい政経分野において不得意項目や未学習項目を残すと、それがそのまま低得点につながってしまうことになります。それゆえ、早期に全分野を網羅することで、科目としての全体像をつかんでおくことが一つのポイントです。知識を万全にするためには、過去問研究による知識拡大が必要不可欠です。徹底した過去問演習を通して未知の事項をノートなどに整理し、用語集や資料集を活用して、自分で調べながら習得していくといった学習を継続して行いましょう。思考力・判断力に加え、読解力が必要な問題への対策としては、過去問に加えて最新の模擬試験や問題演習に取り組むことが重要になります。新傾向の問題はまだまだサンプルが少ないので、各種の模試や演習に積極的に参加して、そのような問題に触れる機会を増やしましょう。

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