令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
旧情報(仮)

2022年11月10日掲載

出題の特徴

全体的に図表が多く、図表を選ばせる問題も散見された。また、2020年11月公表の試作問題や、2021年3月公表のサンプル問題と比して、考察問題が多く、頭の中でシミュレーションする必要がある問題も出題された。また、大問内の流れをきちんと読み取った上で考察する必要がある問題も見られた。知識問題は、単純に用語を尋ねる形式ではなく、2行程度の文章から正しいものを選ばせる形式であった。
なお、一部『情報Ⅰ』と共通の問題があった。

大問は4題であった。第1問はAとBの2つのパートに分かれており、さらにAパートでは問いごとに異なるテーマであったため、その分、試作問題全体では様々な分野から出題された。二次元コードや待ち行列、家庭でのネットワークや情報セキュリティ、お釣りの計算のように、身近なテーマの問題が散見された。情報科は日常生活と密接に関わるため、日常的な題材から学習のヒントを見つけて貰いたい、というメッセージと見ることができる。

問題構成

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
1 35 19 ネットリテラシー、パリティビット、2進法、データ量と通信速度、二次元コード 標準
2 15 6 待ち行列 やや難
3 15 5 著作権とクリエイティブ・コモンズ・ライセンス 標準
4 25 13 ネットワークと情報機器、情報セキュリティ やや難
5 25 16 プログラミング 標準
6 25 10 問題解決、情報セキュリティ、表現の工夫 標準

問題分析

問題量

必答問題の大問は2題、設問数は17問、マーク数は32個。「情報の科学」を主たる範囲とする大問は2題、設問数は6問、マーク数は22個。「社会と情報」を主たる範囲とする大問は2題、設問数は11問、マーク数は15個。「情報の科学」の選択者も「社会と情報」の選択者も、60分で解答する分量としては多い。受験生は、実際の共通テストでは今回と同程度の問題量となることを想定し、制限時間内で解き切れるよう練習しておく必要があろう。

出題分野・内容

  • 第1問Aの問1・2とB全体、第2問、第5問は『情報Ⅰ』と共通問題であった。
  • 第1問と第4問が必答問題(配点は60点)であり、第2問と第3問から1題、第5問と第6問から1題を選択(選択問題の配点は、どの組合せでも40点)する形式であった。なお、選択問題のうち、「情報の科学」を主たる範囲とするのは第2問と第5問、「社会と情報」を主たる範囲とするのは第3問と第6問であったが、第2問と第3問、第5問と第6問のうち、どちらを選択するかは、その場で決めることができた。つまり、両方とも、同じ科目を主たる範囲とする問題を選択する必要はない形式となっていた。必答問題は、「情報の科学」と「社会と情報」に共通する範囲より出題された。
  • プログラミングがテーマの第5問では、2020年11月公表の試作問題や、2021年3月公表のサンプル問題と同様、Pythonに類似した疑似的なプログラミング言語(DNCL)が用いられた。今回、問題と同時に公表された、試作問題「情報」の概要、では、この言語の仕様が示された。なお、このDNCLは、「情報関係基礎」で用いられているDNCLとは仕様が異なる。

出題形式

  • 2020年11月公表の試作問題や、2021年3月公表のサンプル問題では、全ての問題で選択肢が枠で囲ってあったが、今回の試作問題では、選択肢が枠で囲われていない問題が散見された。
  • 文章を選ばせる問題の選択肢は2行程度と、これまでより長く、その分、情報量が多かった。また、選択肢の数は最大で6つであり、サンプル問題より多かった。
  • 正しいものを過不足なく選ばせる問題が散見された。
  • 第1問は、Bパートも問題番号が問1から始まるため、ややこしい。また、マーク数が19、配点が35点と、「重い」大問であった。
  • 第6問では、複数の生徒の会話から、問題の条件に当てはまる発言を選ばせる問題が出題された。
  • 大学入試センターから公表された資料によると、「『情報Ⅰ』について(中略)経過措置科目(補注:今回の『旧情報(仮)』)を出題するか、『情報Ⅰ』の試験問題の中に選択解答できる問題を出題するかは、今後、大学入試センターにおいて検討する」という文言があった。つまり、今回は『情報Ⅰ』と『旧情報(仮)』の2種類の問題が公表されたが、今後の検討次第では、選択問題のある、1つに統合された問題となって共通テストで実施される可能性がある。

難易度(全体)

2020年11月公表の試作問題や、2021年3月公表のサンプル問題と比して、今回の試作問題の難易度は高かった。
その場で情報を与えて考えさせ、正しい図表を選ばせたり、これまでより選択肢の文章が長く、含まれる情報を適切に処理して判断することを求められたりする問題が多く見られ、一問一答的な易しい問題は出題されなかった。また、第6問のように、図表が順々に示される問題では、今回は図表の数が多かった分、流れを正しく把握するのが難しかった。また、正しいものを過不足なく選ばせる問題は、正しいものが幾つあるのか分からないため、難易度が高い。

設問別分析

第1問(35点満点)

配点 出題内容
A 20 ネットリテラシー、パリティビット、2進法、データ量と通信速度
B 15 二次元コード

分析コメント

  • Aの問1aで、画像の使用に関して著作権の侵害の有無を問う選択肢があるが、第3問の問1は、同様のテーマの問題となっている。
  • Aの問2オは、16進数から2進数への基数変換と、追加するべきパリティビットの判断という、2つのことが要求されたため、難しく感じる受験生は多いだろう。
  • Aの問3は、2進法がテーマであるが、モールス信号を題材としているのが興味深い。今後も同様に、意外な題材から様々な分野の問題が出題される可能性がある。
  • Aの問4aは、問題文をきちんと読まないと「1バイト=8ビット」の換算が必要なことを見落とす可能性がある。換算を忘れたときの数値(誤答)も選択肢に用意されているため、間違いに気づきにくい。これは共通テストでよく見られる選択肢の作り方であるため、注意が必要である。
  • Bの問2は、問題文より、角度や向き、黒白の比は答えになり得ないことが分かる。また、解像度やディジタル画像に関する知識があれば、類推して正解を選べる。
  • Bの問3は、各選択肢を1つずつ表1に当てはめ、「セル数は文字数が増えても変わらない時があるが、復元能力が上がる場合は増える」という傾向を把握できれば解けるが、時間を要する可能性がある。また、この傾向が把握できていないと、次の問4で正解を導き出すのは厳しいだろう。

第2問(15点満点)

配点 出題内容
15 待ち行列

分析コメント

【第3問との選択問題】(いずれか一つを選択)

  • 問1は、問題文より、乱数の使用目的と、表1の累積相対度数と表2の乱数の対照が要求されていることを読み取る必要がある。さらに、表2をもとに図1を完成させることが必要であった。
  • 問3は、図2の「来客人数40人」のグラフからの変化を頭の中でシミュレーションし、ピークの位置が10人より左にズレることに気付けば、正解に至ることができた。

第3問(15点満点)

配点 出題内容
15 著作権とクリエイティブ・コモンズ・ライセンス

分析コメント

【第2問との選択問題】(いずれか一つを選択)

  • 問1は、コンテンツ利用規約を読ませて理解を問うもので、国語科のような問題。但し、書かれている内容は一般的なものであるため、一度でもこのような規約を読んだことがあれば、選択肢を見ただけで、答えの想像がつくだろう。なお、本問は正しい文章の数が選択肢から読み取れない、「正しいものを過不足なく選ばせる問題」である。
  • 問2は、著作権を構成する各権利について問うもの。一つ一つ覚えておくことに越したことはないが、権利名の字面から、ある程度絞り込むことができるだろう。
  • 問3のエは、「改変禁止(ND)」と「継承(SA)」について、問題文より「NDあり」「NDなしでSAあり」「NDなしでSAなし」の3通りがあると読み取れれば、「非営利(NC)」の有無の2種類と合わせて、3×2=6種類と分かる。

第4問(25点満点)

配点 出題内容
25 ネットワークと情報機器、情報セキュリティ

分析コメント

  • 問1〜3は、家庭用のルータに関する問題。問5や問6も含めて、他人が設定したWi-Fiを使うだけでなく、自分でルータを少しでも調べたことがあれば分かりやすい。

  • 問4は、想像力を要する難問。しかし、本問の正解選択肢はUSBフラッシュメモリを介したウイルス感染に関するものであり、ネットワークの知識は必ずしも必要ではなかった。

  • 問6のクは、正しいものの数が選択肢より判断できない、「正しいものを過不足なく選ばせる問題」。

  • 問7は、「ブルートフォース」に括弧付きで「総当たり」と書いてあるが、「ブルートフォース」を知らない人が、「総当たり」という言葉だけで正確にイメージできるかどうか。やはり「ブルートフォース」という言葉と意味を予め知っておくことが望ましい。イメージできれば、あとは簡単な指数計算である。
  • 問8は難問。ブルートフォースによる侵入行為がどのようにして起こるかを想像できないと、正答は導き出しにくい。
  • 問9はセキュリティの三要素に関する問題。「機密性」「完全性」「可用性」という言葉だけでなく、それぞれの意味をきちんと理解できないと解けない。本問では「定義」があるため、比較的解きやすくなっている。実際の共通テストでは、「定義」なしで出題される可能性もあるため、この機会にきちんと習得して貰いたい。

第5問(25点満点)

配点 出題内容
25 プログラミング

分析コメント

【第6問との選択問題】(いずれか一つを選択)

  • 全体の流れとして、コードを問う前に、導入として易しい問題が設けられ、さらに、コードについての問題も、説明がかなり詳しくついていた。どちらも、難易度を下げようという意図を感じさせる。
  • 問1および問2のオ、カまでは導入であるが、説明がかなり丁寧であった。誘導に従い、46円という具体例で考えれば、比較的解きやすかったと思われる。
  • 問2の問題文で、演算『÷』と『%』の説明があった。『%』は2020年11月公表の試作問題で見られたが、『÷』は試作問題やサンプル問題では初めて用いられた。今回、問題と同時に公表された、試作問題「情報」の概要、の「共通テスト用プログラム表記の例示」には『÷』や『%』が含まれるため、本番の共通テストでは説明なしで用いられる可能性がある。
  • 問2のキは意表を突く出題。カウントダウンによって配列を後ろから参照させるのは少しクセのあるやり方。配列を前から参照させるカウントアップだけでなく、カウントダウンという方法も出題されうる、と理解しておきたい。
  • 問3は本格的。反復しながら最小値を入れ替えていくというのは、プログラミングの基本的な手法であり、基本に対する理解度が問われた。この部分だけで11点あるので、差がつく可能性が高い。

第6問(25点満点)

配点 出題内容
25 問題解決、情報セキュリティ、表現の工夫

分析コメント

【第5問との選択問題】(いずれか一つを選択)

  • 「社会と情報」寄りの、問題解決の問題であるが、8個と多数の図表を分析する必要があり、「情報の科学」的な能力が要求される印象がある。
  • 問題が10ページに渡るうえに、一つ一つの問題文や選択肢も長く、読解力を要求される。
  • 問2は「クラウドサービス」、問7は「フィルタリング」に関する知識が必要。
  • 問3の選択肢⑤は、「テキストマイニング」の知識があればこの場で誤りと分かる。しかし、自由記述の分析方法に関して問う問6があることで、遡って、この選択肢が誤りだと分かってしまう。
  • 問4は、目的に合わせて表1~4のどれを見るかの判断力が問われた。差がつきやすいため、練習が必要である。
  • 問5は、目的に合うグラフについて問う、情報デザイン的な問題。
  • 問6は、「テキストマイニング」という手法がテーマで、一見難しそうだが、正答以外の選択肢が明らかに誤りなので、消去法で解決できるだろう。
  • 問8も情報デザイン的な内容。「わかりやすく伝わるようにする」という目的に対し、「文字を小さく」や「文字情報だけ」という選択肢は、常識的に除外できるだろう。情報デザインは、見る人に依存する部分も少なくなく、人によって判断が分かれることもある。「明らかに○」や「明らかに×」でないと入試問題にならないので、このように明暗はっきり分かれるような選択肢にならざるを得ないのではないか。但し、本問も正しい文章の数が選択肢から判断できない「正しいものを過不足なく選ばせる問題」であるため、その点だけは難易度を上げている。

学習アドバイス

旧情報を選択する受験生は、受験に再挑戦する生徒と思われます。情報科は、2024年に行われる共通テストまではない科目ですから、1年後の再挑戦が決まってから勉強を始めることになるでしょう。高校で授業を受けたのも1〜2年以上前なので、基本的に最初から学び直しになるのではないかと思いますが、今回の試作問題を見る限り、教科書から大きく逸脱するような内容はなさそうです。高校で情報科を学んだ当時の教科書を復習すれば、カバーできるはずです。
むしろ補強すべきは、多くの問題文や図表を読みこなす読解力でしょう。今回の試作問題を見る限り、一問一答的なすぐに答えられる問題は少なく、問題文や図表をじっくり考察することを要求される問題が中心になると思われます。特に、プログラミング問題を選択しない受験生に用意されている問題(今回の試作問題では第6問)は、プログラミング問題と難易度を合わせるために、特に多くの問題文や図表を読ませるのではないかと思われます。それに対応できる読解力が求められます。
試験対策ではもう一つ、身近にある情報技術や情報社会に関するニュースに積極的に関心を持つことをお勧めします。例えば、今回の試作問題では第4問に家庭用ルータの話が登場しています。家にWi-Fiがある人は目にしたことがあるはずです。ルータについて少しでも調べてみたことがあれば、今回の試作問題はある意味「的中」であり、問2(SSIDとパスワード)や問6(WANポートとLANポート)は素早く正答にたどり着けるはずです。情報技術や情報社会のニュースに、「お客さん」として漫然と接するのではなく、たまには「当事者」となって自ら調べてみたりすることを、ぜひ心がけてください。

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