令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
公共,政治・経済

2022年11月10日掲載

出題の特徴

「ありがちな受験対策」では対応できない出題が目立ち、受験生の読解力・思考力・応用力を日常の学習で鍛えていくことが求められる。

2大問で25点分の「公共」は、哲学(カント、アリストテレス)の2設問以外は政治・経済型。「政治・経済」の4大問は最新の共通テスト問題に比べ軽量化し、問題の総量は微増にとどまる。2022年度共通テスト問題に比べると、裁判所法の条文を読んで応用的に考える設問や数学的理解力も必要な設問など、受験生の読解力・思考力・応用力を試す設問が増えた印象で、「ありがちな受験対策」では対応できないだろう。

問題構成

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 13 4 公共の共通問題1(多様性・共通性、SDGs) 標準
第2問 12 4 公共の共通問題2(人口減少社会) 標準
第3問 18 6 平等(法の下の平等、人権条約、国際社会など) 標準
第4問 18 6 雇用慣行(年金、経済学者、労働需給曲線など) 標準
第5問 19 6 日本経済の変化とインターネット やや易
第6問 20 8 移民・難民(EU、シリア難民、日本の受入れ等) 標準

問題分析

問題量

2022年度本試験「政治・経済」に比べ、大問数6は2増(増分は「公共」)、総設問数32は2増(「政治・経済」の設問数24は20%減)、掲載頁数44は4増。「公共」が加わった割に微増でとどまった。

出題分野・内容

  • 「公共」は第1問の問1(カント)、第2問の問1(アリストテレスの配分的正義はやや細かい)を除き、ほぼ「政治・経済」型の設問で構成。
  • 「政治・経済」4大問のうち、第3問は国際政治を含む政治の総合問題、第4問は経済の総合問題、他は政治・経済の融合問題。
  • 第3問の問5(掲載された裁判所法の条文から最高裁小法廷での合憲性判断の可否を考える)は読解力・思考力を要する設問。
  • 第4問の問1(1970年代・1990年代・2010年代のインフレ率・完全失業率)など、それなりの知識を要する設問があった。
  • 第5問の問2(産業別実質付加価値の変化率と産業別就業者数の変化率から労働生産性の変化率を読む)は、労働生産性の定義が分かっていれば難しくないが、数学的理解力を要する。
  • 第5問の問3(年齢階層別インターネット端末の利用状況)など「政治・経済」の学習を活かせない設問が散見され、第6問ともども探究学習にこだわって出題分野が偏ってしまった。

出題形式

  • 共通テストで多用されるようになった「当てはまるものをすべて」選ぶ設問が第5問に1、第6問に2あった(総数としては微減)ほか、「現代社会」のように「正しいものはない」を選択肢に加えた8択の設問が「公共」の第1問に1あった。
  • 共通テストで少なくなった単純な4択問題はやはり数設問にとどまり、さまざまな組合せ問題、複数箇所の空欄穴埋め問題、図表読解問題、文章読解を含む思考力問題など、多彩である。
  • 試作問題ゆえか共通テストほど凝った図版はないものの、2022年度本試験「政治・経済」で8あった統計または模式的数値を読む設問が12もあった。
  • 最後の設問(第6問の問6)は、(1)で任意に選んだ提言について、(2)で提言のもとになった意見の組合せを見出す形式(任意選択・連動型)。

難易度(全体)

細かな知識を要する設問は少数で、その意味では難しくない。しかしながら、特徴的な出題として上に示した第3問の問5、第4問の問1、第5問の問2、第6問の問6などは読解力・思考力やそれなりの知識を要する設問で、手応えがある。教科書や資料集にはない資料を多く読むという負担感もあり、どのような受験対策が有効か、見出しがたい。あるいは、そういう「ありがちな受験対策」では対応できない出題を受験生に課すことで、受験生の応用力をみるという狙いなのかもしれない。以上のような読解力・思考力・応用力を日常の学習で鍛えていくことが求められるとすれば、なかなか難しいことになる。

設問別分析

第1問(13点満点)

配点 出題内容
13 公共の共通問題1(多様性・共通性、SDGs、民法)

分析コメント

「地理総合、歴史総合、公共」「公共、倫理」との共通問題。「公共」という科目で覚えておくべき知識の代表例を示したような出題になっている。問1は、サルトル、プラトン、(アリストテレスの影響を受けた)共同体主義、カントの思想を出題。カントなど「公共」の教科書に肖像つきで登場する人物の思想は出題されやすいだろう。問2は、障害者差別解消法や男女雇用機会均等法の影響を考えさせるが、平易な設問。問3は、頻出するSDGsを題材に用いた、読解・思考要素のある設問。問4は、成年年齢など民法の規定に関する設問で、ア~ウ全ての記述の正誤判定が必要。

第2問(12点満点)

配点 出題内容
12 公共の共通問題2(人口減少社会)

分析コメント

ここまでが「地理総合、歴史総合、公共」「公共、倫理」との共通問題。問1では、「倫理」履修者でも混同しがちなアリストテレスの配分的正義と調整的正義(矯正的正義)の区別が問われており、共通テストで試される知識のレベルを知ることができる。グラフ読解問題の問2では相関関係と因果関係の区別も問われたが、このことは「公民」ではあまり扱われないようなので、思考力を要する設問だと言える。問3もグラフ読解問題。経年変化をたどるのに少し神経を使うほか、正解の選択肢の文が「重要な要因」と言えるのか説得力に乏しく、やや難問だと感じられる。問4は会話の流れに沿って空欄の発言を埋めていく形式だが、「効率的」の解釈がやや一面的だろう。第2問では総じて、経済分野の中でも数値の把握を要する話題に親しんでおくことが、スムーズに解答するためのポイントになっていた。

第3問(18点満点)

配点 出題内容
会話文1 6 法律による男女平等と人権条約
会話文2 6 投票価値の平等と安保理常任理事国の拒否権
会話文3 6 最高裁の違憲審査権と日本国憲法の前文

分析コメント

共通テスト「現代社会」と同様に三つの会話文で分割された、政治分野の大問。問1(男女の平等に関する日本の法律)は、センター試験型の単純な四択問題。問2(人権条約と日本の批准状況)の年表中の空欄補充組合せ問題は、共通テストで既出の形式で、平易。問3の表(1980年以降の総選挙における一票の格差の推移)は単純で読みとりは簡単だが、正答のためには小選挙区比例代表並立制の導入年(1994年の公職選挙法改正で1996年の総選挙から実施)の知識が必要。問4の表(安保理常任理事国の拒否権行使の推移)も単純だが、正答のためには朝鮮戦争などの暦年をほぼ正確に知っておく必要がある。問5はやや難しい。裁判所法第10条の条文を熟読し、第二号の原則から小法廷が自主的に「違憲」と認めることはできず(合憲判断は可能)、第一号から当事者の主張に基づくときは違憲・合憲とも判断できない(よって小法廷の違憲判断は不可能)ことを読みとる必要がある。問6は、「人間の安全保障」を理解していれば易しい。

第4問(18点満点)

配点 出題内容
会話文1 9 日本経済の歩み、雇用慣行の国際比較、年金制度
会話文2 9 経済学説、現在の雇用問題、労働市場の需給曲線

分析コメント

経済分野の総合問題だが、労働分野の比重が大きい。問1は、1970年代・1990年代・2010年代それぞれのインフレ率・完全失業率のグラフを読みとり、いずれの年代かを判別する設問で、1974年頃の「狂乱物価」や1990年代後半のデフレ不況、2014年の消費税率引上げによる物価上昇といった知識を要する。問2(雇用慣行の国際比較)の表は設問文および説明文をヒントにして読みとり可能だが、思考力を要しやや時間がかかる。問3(年金の仕組み)は、センター試験型の単純な四択問題。問4は、フリードマンのマネタリズムとリカードの比較生産費説の初歩的な理解で正答できる平易な設問。問5もセンター試験型の単純な四択問題だが、正解(誤文)の決め手がワーク・ライフ・バランスとワーク・シェアリングの違いという、やや安易な出題。問6(労働市場の需給曲線)は、メモの記述に従って考えれば易しい。

第5問(19点満点)

配点 出題内容
19 日本経済の歩みとインターネットの利用

分析コメント

「政治・経済」の授業で探究学習が行われたという設定での大問だが、設問の比重がインターネットの利用に傾いた出題であった。問1(日本経済の歩み)はセンター試験型の単純な四択問題で、持株会社の初歩的な理解で正答できる平易な設問。問2は一転して、2ページにわたる重量級の設問。会話文を読めば、表(製造業など産業別の実質付加価値・就業者数の変化)の読みとりも労働生産性の計算も可能になるが、思考力を要し、時間がかかる。問3(年齢階層別インターネット端末の利用状況)はきわめて平易で、「政治・経済」の学習と関係なく正答できてしまう。問4(インターネットに関わる日本の法制度)は、知的財産権の理解および通信販売はクーリング・オフの対象外という知識を要する。問5(インターネット上の違法・有害情報対策)は、生徒たちの意見から適切な対策を見出していくという良問で、会話の展開から素直に正答できる。問6(インターネット時代のメディア・リテラシー)は、読解力さえあれば「政治・経済」の学習と関係なく正答できてしまうし、報告に対する生徒たちの発言は、報告の内容には合致しているとしても、客観的には根拠の薄弱な推測に過ぎないのが残念である。

第6問(20点満点)

配点 出題内容
20 欧州連合と移民・難民

分析コメント

この大問も、「政治・経済」の授業で生徒たちの研究発表と討論が行われたという設定のためか、出題内容が偏っているという印象を受ける。問1(南欧・東欧からの移住の背景)は、ユーロ危機やEUの東方拡大などの知識を要する標準的な設問。問2(EU加盟国間の移住と各国の最低賃金水準との関係)は、特徴的な3か国について三つの資料を通じた分析の当否を判断する設問。分析の記述を読めば当否の判断は簡単だが、やや時間がかかる。問3(イギリスがEU離脱を選択した国民投票)は、四つの選択肢から二つの空欄に当てはまる記述を選ぶ設問だが、選択肢に明らかな誤文が二つあって簡単に正答できる。問4(シリア難民)は、シリア内戦というピンポイントの知識を要するのでやや難しい。問5(先進国の難民認定と難民条約)は、カナダ等のマルチカルチュラリズムとノン・ルフールマン原則の知識を要する標準的な設問。問6は任意選択・連動型の設問で、日本への移民・難民の受入れをめぐる生徒たちの意見と、それらを組み合わせて考えられる提言とを結びつけるというもの。意欲的な出題だと評価できる半面、受験生にとっては時間がかかるので負担が大きいだろう。設問を軽量化する必要がありそうだ。

学習アドバイス

試作問題ゆえ、受験生にとって答えにくそうな設問が目立ち、対策を立てにくいという印象を持たれたと思います。ただし注目したい点として、裁判所法の条文から小法廷の違憲判断が不可能であることを読みとる設問(第3問の問5)をはじめ、論理的に考えて答える設問が多くあり、「政治・経済」で学ぶ知識からすぐ答えられる知識問題の数を上回る勢いだということを指摘しておきましょう。知識問題への対策(覚えること)に比べて、論理的に考える訓練は「ありがちな受験対策」からほど遠く、手軽な対策はあまりないでしょう。強いて言えば、共通テストの過去問題にもよく見られる、思考力を要する設問にしっかり取り組むという問題演習が、手っ取り早いでしょう。ただ、「政治・経済」で学ぶ基本的な知識は考える土台になる点で必須です。その両方を愚直に追求しましょう。

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