令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
歴史総合,世界史探究

2022年11月10日掲載

出題の特徴

資料読解要素と知識を融合させた、野心的な出題が多かった。

第1問の「歴史総合」部分は、「歴史総合,日本史探究」における「歴史総合」部分とは完全に別の問題であった。一方「地理総合,歴史総合,公共」における「歴史総合」部分とは半分共通する。
豊富な史資料が提示されている点は現行の共通テストと同じである。一方で、2022年の共通テスト本試験では史資料を用いた読解問題と知識問題を分けて問う傾向が見られたのに対し、今回の試作問題ではそれらを融合させて問う問題が多かった。

問題構成

大問番号 配点 マーク数 出題内容 難易度
第1問 25 9 【歴史総合】人々の接触と他者認識 標準
第2問 13 4 【世界史探究】世界史上の都市 やや難
第3問 15 5 【世界史探究】人の移動に伴う移動ルートの選択 標準
第4問 25 8 【世界史探究】国家と宗教の関係 標準
第5問 22 7 【世界史探究】反乱、運動などにかかわった人々 標準

問題分析

問題量

大問数は5で現行の共通テストと同じ。マーク数は33で、これも現行の共通テストの34とほぼ同じ。ただし、史資料の読解に要する時間が長くなりがちで、現行の共通テストよりも時間がかかるようになっている。

出題分野・内容

西洋史・東洋史という観点では、「歴史総合」の第1問で日本史が出題されている点を除いて考えると概ね均等。
時代別でもバランスよく出題されているが、「歴史総合」の第1問が近現代史のみで構成されているため、その反動で「世界史探究」の第2問以降は前近代史からの出題がやや多い。

出題形式

出題形式は現行の共通テストから大きな変化は無かった。4択の正誤判定問題と、正しいものの組合せを選択する問題が中心である。2022年の共通テストでは無かった時系列の並び替え問題がサンプル問題では出題されていた。また、現行の共通テストの本試験では見られなかった連動式の問題が今回の試作問題では出題されていた。

難易度(全体)

総合して判断すると、現行の共通テストよりもやや難しいと思われる。要求される知識水準は標準的であるが、歴史用語そのものよりもその内容や概念の理解が要求されることがより増えている。また、史資料問題の解答に要する時間が長くなり、時間不足に苦しむ受験生が増加すると予想される。

設問別分析

第1問(25点満点)

配点 出題内容
9 19世紀のアジアと欧米の接触
B 7 戦争時のナショナリズムや他者イメージ
C 9 大阪万博に関する社説

分析コメント

問1、「薩摩藩の行列と馬に乗ったイギリス人の一行との間に、図に描かれているような出来事が発生しています」という文中の「図」に相応しい絵と、その事件が起きた時期を年表中から選ぶ問題。この事件とは生麦事件を指すが、その知識がなくても、馬に乗った洋服を着た男性を襲っている「い」が正しいと判断できる。年表も、イギリス人を襲ったのだから、イギリス艦隊が薩摩を攻めたと推測して、正解を選べるが、幕末の日本史知識がないと確信はもてないだろう。問2は読解問題。領事裁判権についての知識を想起すれば解きやすい。問3は近現代世界各国の知識問題。問4は、「世界史B」の共通テストの試行調査では存在したものの本試験では出題されていない、連動式の問題。内容はほぼ近代ヨーロッパに関する知識問題。問5はナショナリズムの現れ方とその具体例に関する問題。近代日本および世界に関する知識と、ナショナリズムに関する考察力が求められた。ただし、ナショナリズムについて理解できていれば、細かい知識がなくても、正解を推測することができるだろう。問6、大阪万博当時の社説の読解問題。当時の日本および世界に関する知識も求められた。問7は現代世界に関する知識問題。問8、1970年以降の発展途上国と日本との関係についてのグラフ問題。グラフの読解力と現代の日本および世界に関する知識が求められた。

第2問(13点満点)

配点 出題内容
13 世界史上の都市の住民分布の比較

分析コメント

世界史上の様々な都市における民族別・宗教別の住民分布についての資料を用いた設問。小問ごとに資料が示されるうえ、複数の資料が同時に提示されることもある構成で、思考力に加え資料から必要な部分を捉える処理能力が必要となった。問1はオスマン帝国におけるミッレトの内容と地図の読図で標準的な内容。問2は清代北京の住民の民族的区分とその区分であると判断した根拠が組合せの形で問われているが、根拠部分を先に知識で処理した方が解きやすいだろう。問3は選択肢の構成上、知識だけで判断する部分と、地図と表の読解のみで判断できる部分が分かれている。問4は大問中の全ての問題の内容を踏まえて解く必要があり、新しい形式といえる。

第3問(15点満点)

配点 出題内容
A 9 1123年に高麗に派遣された宋の使節がたどった海上航路
B 6 15世紀末~16世紀中頃のイングランド商人によるアジア航路の開拓

分析コメント

外交や貿易に伴う人の移動をテーマに、Aでは宋と高麗、Bではイングランド商人の航路開拓に関連する事項が問われ、地図資料も複数用いられた。問3は少し判断に迷ったかもしれないが、消去法で正解を導ける。宋代は商工業の発達が著しく、この経済発展を背景に海上交易が活発に行われた。問5は「1550年代」からイングランド商人のルート開拓を阻んだのはポルトガルだとわかる。この時期のイングランドは新たに北海・北極海方面への進出を試みたが、それがわからなくても、ポルトガルやスペインが繁栄したこの時期に、イングランドはアフリカ廻り航路の開拓はできなかったという状況を想起できれば、正解を導くことができる。

第4問(25点満点)

配点 出題内容
A 10 トラヤヌス帝の対キリスト教徒政策
B 6 南北朝時代の仏教や文化
C 9 第三共和政期フランスの政教関係

分析コメント

現在の共通テストとほぼ変わらない形式となった。問3は「ローマ帝国による地中海地域の統一」の終焉を「ゲルマン人の大移動」に置くか「イスラーム勢力の拡大」に置くかを考えたとき、それぞれの根拠となる例を判断する問題であった。後者の根拠として西ゴート王国が滅ぼされたことを選ぶのは戸惑いがあったかもしれない。

第5問(22点満点)

配点 出題内容
A 6 中世ヨーロッパの農民反乱
B 6 近代アジアの女性
C 10 アメリカ合衆国におけるベトナム反戦運動

分析コメント

世界史上の動乱や運動に関わった人物をテーマに、Aでは中世ヨーロッパ、Bでは近代東南アジア、Cでは戦後のアメリカ合衆国について問われた。A・Bは文字資料が中心だが、Cでは表やグラフも用いられた。全体的に基本知識があれば解ける設問が多かった。問4はオランダの倫理政策を知っていれば解答は容易だったが、その知識がなくてもレポートの読解を通じて正答を導くことができた。問7は第5問の設問全体をふまえて主題を考えさせ、また、その主題をさらに深めるための出来事を選ぶという特徴的な出題だった。

学習アドバイス

問われている知識の内容が、用語それ自体よりも、年代や内容の理解に重点が置かれています。年代や内容に注意して暗記に努めるとよいでしょう。歴史総合の部分に日本史の要素が含まれていますが、内容は易しいです。世界史探究の学習にもつながりますので、歴史総合の中の、世界史にかかわりが深い部分の日本史を重点的に学習しておくとよいでしょう。
共通テストでは、多くの史資料(史料・図版・統計データ)が出題され、しっかりとした読解力が要求されます。出題される史資料は、教科書や資料集に掲載のあるものは少なく、ほとんどの受験生にとって初見となる史資料が多いです。とはいえ、史資料問題である以上は読解の方法は同じであるので、まずは頻出の史資料をチェックして読む練習をしておくと、初見の資料が出題されても慌てずに解答できるようになります。資料集に掲載されている頻出のグラフや史料文、図版や写真をよく参照しておくとよいです。地図問題の出題も多いですから、主要な国や地域、都市の位置も押さえておきましょう。

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