令和7年度大学入学共通テスト試作問題分析
数学I,数学A
2022年11月10日掲載
出題の特徴
新課程で新たに追加された内容を提示する形の出題になっている。
「データの分析」では外れ値、仮説検定の考え方が出題されており、「場合の数と確率」では期待値の計算、利用というテーマが含まれている。
また、現行課程における「整数の性質」の出題がなくなったため、全問が必答問題になっている。
なお、「データの分析」と「場合の数と確率」以外は令和3年度大学入学共通テスト本試験(1月17日実施)と同一の内容が充てられている。
問題構成
大問番号 | 配点 | マーク数 | 出題内容 | 難易度 |
---|---|---|---|---|
第1問 | 30 | 27 | 数と式、図形と計量 | 標準 |
第2問 | 30 | 26 | 2次関数、データの分析 | やや難 |
第3問 | 20 | 16 | 図形の性質 | やや難 |
第4問 | 20 | 19 | 場合の数と確率 | 標準 |
問題分析
問題量
分量は多めであり、問題によっては設問にいたる前に状況を自分で整理する必要がある。個々の設問も、誘導が少ない問いや一つひとつ丹念に調べる必要がある問いがあり、質・量ともに重めの出題である。
出題分野・内容
第1問〔1〕は数と式からの出題であったが、この問題はセンター試験と同程度の難易度である。
第1問〔2〕は図形と計量の問題である。三平方の定理を念頭に、対頂角に着目して解答したい。
第2問〔1〕は2次関数の問題であるが、設定を理解できれば設問そのものはそれほど難しくない。
第2問〔2〕はデータの分析からの出題だが、計算というよりはデータの読解が問われた。文章量が多いので注意が必要である。
新課程において登場する「外れ値」「仮説検定の考え」は、教科書に載っている定義や仮説検定の行い方を素直に問う内容となっていた。
第3問は図形の性質の問題である。必要なものは角の二等分線の性質と方べきの定理等であるが、誘導が少ないため、図形の種々の性質を適切に用いることができるかどうかが問われている。
第4問は確率の問題である。(2)は「前の人の選択・抽選の結果を見て、自分は同じ選択をする方が有利か」を考える問題となっており、「数学を日常に生かす」ことを念頭に置いた問題と言える。
出題形式
全問マークシート形式である。
答を選択肢から選ぶ問題が第1問で8題、第2問で8題、第3問で1題、第4問で4題であったが、それ以外は数値を求めさせる問題である。
難易度(全体)
大半の問題が令和3年度共通テストを流用しているため、全体の難易度としては、令和3年度共通テストと同程度である。
新規問題は以下の2題のみである。
第2問〔2〕「外れ値、仮説検定の考え方」が入り、定義の理解を問う問題である。(2)(i)の読解が難しいが、あとは共通テストと同等もしくは少し易しいくらい。(3)の仮説検定の考えは、試作問題ということもあってか仮説検定の一連の流れをなぞる問いであり、ひねりがなく素直。
第4問(2)「期待値の考え方」を問う問題。計算には誘導があるが、易しくはない。
設問別分析
第1問(30点満点)
配点 | 出題内容 | |
---|---|---|
〔1〕 | 10 | 数と式 |
〔2〕 | 20 | 図形と計量 |
分析コメント
令和3年度本試の過去問。〔1〕は因数分解や2次方程式の解、分母の有理化、整数部分についてである。解が有理数になる正の整数cの個数についてはやや発展的な事項である。不等式を用いて値を絞った後、一つ一つ調べればよい。〔2〕は角度が鋭角、直角、鈍角のそれぞれの場合において、面積、外接円の半径に関する式の符号や大小関係を調べる問題である。どのような公式を用いればよいのかを判断する力が求められている。
第2問(30点満点)
配点 | 出題内容 | |
---|---|---|
〔1〕 | 15 | 2次関数(最大値・最小値) |
〔2〕 | 15 | データの分析(外れ値、散布図、箱ひげ図、仮説検定の考え方) |
分析コメント
〔1〕令和3年度本試の過去問。陸上競技におけるタイムと2次関数を結びつけた応用問題である。読解力、思考力、計算力といった総合的な力が必要である。
〔2〕世界各地の国際空港からその最寄りの主要ターミナル駅までの「移動距離」「所要時間」「費用」のデータを分析する問題である。新課程で新たに追加される「外れ値」の定義はほとんどの教科書と同じものとなっており、データの分析においてはこれがスタンダードになるだろう。
また、データの分析では従来から、数値を埋める形式よりも解答群から選ばせる形式に比重が置かれていたが、試作問題でもそれが踏襲されていた。
(1)は四分位範囲の計算並びに外れ値の個数を求める問題である。データが大きさの順かつ4行で並べられており、外れ値の定義もすぐ上に明記されている。計算は非常に易しい。
(2)は三つの変量についての散布図を読み取る問題である。(i)図1を基に対応する箱ひげ図と外れ値となるデータを選ぶ問題であるが、「1kmあたりの所要時間」に対応する直線を図1に自分で書き込まなければならない上に、四分位数や外れ値にあたるデータも自分で探さないといけないため、かなり難しい。(ii)全ての変量が平均値に等しいデータを追加したときの、統計量の変化に関する正誤問題である。いずれも過去にセンター試験や共通テストで出題された事項ではあるが、(III)の正誤判定は少し難しい。
(3)は新課程で新たに追加される「仮説検定の考え方」から、「P空港は便利だと思う人の方が多い」という仮説の正しさを検定する問題である。問題文で仮説検定の方針は明記されているが、それは教科書に載っている仮説検定の一連の流れと同じであり、教科書の内容をきちんと理解できているかが素直に問われている。
第3問(20点満点)
配点 | 出題内容 |
---|---|
20 | 図形の性質 |
分析コメント
令和3年度本試の過去問。角の二等分線の性質や方べきの定理などを用いて解いていく。しかし、複数の円が現れるため、図を何回か書き直すといった手間がかかる。そして、問題の流れに乗るための図形的考察力が必要である。そのため、見た目の分量に反して時間はかかるだろう。
第4問(20点満点)
配点 | 出題内容 |
---|---|
20 | 場合の数と確率(期待値を基にした最適戦略) |
分析コメント
令和3年度本試 第3問(場合の数と確率)の設定はそのままで、問題後半を大幅改変し、期待値を考えて2種類の戦略から最適なものを選ぶ「数学を日常に生かす」内容の問題となった。(1)は同問題の(1)(i)に、各箱でくじを3回引いたときの当たりくじの本数の期待値の設問を追加したものである。(2)の前半部の、先攻の太郎さんに関連する条件付き確率の計算部分は、同問題の(1)(ii)を再編成し、くじを3本引いて当たりくじがちょうど1本であったとき引いた箱が箱Bである条件付き確率を問う設問を削除したものである。(2)の後半は新たに作られた部分であり、後攻の花子さんが先攻の太郎さんと同じ箱を選んだ場合、異なる箱を選んだ場合の当たりくじの本数の期待値を計算することで、よりよい戦略を考察する問題となっている。問題自体の状況把握の難しさはあるが、計算の難易度、分量に無理はなく、適切に問題を把握できれば時間内に十分解ける内容である。
学習アドバイス
- なるべく多くの国公立大2次試験・私大の過去問に触れ、思考力を養う経験が大切です。そのためには、共通テスト実施前に、国公立大2次試験対策・私大対策が仕上がっているだけの学力が必要となりますので、現役生は早い時期からの受験対策が有利になってきます。
- 日頃から、数式の意味することを読み取る訓練が重要となります。
- 高得点をとるためには、どの分野も満遍なく習得しておくことが必要となります。
- センター試験や共通テストの過去問演習を通じ、マーク形式特有の出題に慣れることも対策になります。
- 過去問を利用する際は、試験時間を意識し、時間配分を考えながら行うことが効果的です。
- 図形の性質、データの分析は共通テスト以外での出題率が高くはありません。そのため、これらの分野はセンター試験・共通テストの過去問演習が中心になります。