時事王(2021年) 代々木ゼミナール×読売中高生新聞

読売中高生新聞「時事王」掲載問題の解答ポイントなどを公開。テストに役立つ時事を学ぼう!

読売中高生新聞「時事王」掲載問題の解答ポイントなどを公開。テストに役立つ時事を学ぼう!

2021年12月3日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

【資料1】の下線部からは、刑法にある侮辱罪の条文は、110年以上、ほとんど変わってこなかったことが分かる。それが、今の時代に改正されるのはなぜなのだろうか。
【資料1】から読み取れる社会の変化も念頭に置きながら、まとめてみよう。

 

【解答例】
かつて誹謗中傷は、多くの場合、口コミなどが届く狭い範囲の人々にしか伝わらなかったはずだ。ところが、現代ではインターネット上に書き込まれた誹謗中傷が、世界中の誰の目にも瞬時にさらされるようになっている。
しかも、匿名での書き込みが可能であることにより、過激な内容の中傷を手軽に発信できるようにもなった。
こうしたことで、「侮辱」をめぐる法改正が、今の時代に必要になったのだろう。

 

【解説】
日常生活で当たり前にスマートフォンを使用している皆さんの世代では、インターネットやスマートフォン(携帯電話)が存在していなかった少し前の時代のことを、想像することすら難しいかも知れません。
110年以上前と言えば、インターネットはおろか、テレビやラジオすらなかった時代です。そうした時代の暮らしについて想像をめぐらし、現代との違いを確認することは、受験でも大いに必要とされる「思考力」を養う一助になることと思います。

 

【問2】

専門家の間では「インターネット上での誹謗中傷をターゲットにした侮辱罪の厳罰化には、もっと慎重になるべきだ」という意見も存在する。
なぜそのような意見が出るのだろうか。「表現の自由」をキーワードとして、考えてみよう。

 

【解答例】
厳罰化が行き過ぎると、自由に各人の意見を表明する機会が奪われ、「表現の自由」が萎縮してしまうおそれがあるから。
また、たとえ事実に基づいた正当な指摘や、社会的に有用な指摘であっても、摘発をおそれて書き込みを控える者が増加するだろうと考えられるから。

 

【解説】
読売新聞2021年10月20日朝刊の9面にある「解説」記事には、今回の侮辱罪厳罰化というテーマをめぐっての、法制審議会(法相の諮問機関)での議論も紹介されています。
弁護士の委員からは「政治家や公務員への批判もしにくくなる」といった意見が出ており、また検察や警察の委員からは「これまでも論評や表現活動の正当性などを考慮して犯罪の成否を判断しており、それは法定刑が引き上げられても変わらない」といった意見が出ています。

 

【問3】

あなたは、インターネット上におけるどのような書き込みであれば侮辱罪に問うべきで、どのような書き込みであれば問うべきではないと考えるか。
その基準や境界について、自分の考えをまとめてみよう。

 

【解答例】
まず、インターネット上の書き込みはあくまで文字である以上、よほど悪質でなければ罪に問われるべきではない。文字には抑揚が伴わないので、普段の会話におけるような冗談として打ち込んだ書き込みが、そのニュアンスを失ってしまうこともあるためだ。
その上で、例えば侮辱が個人への不当な攻撃の域にまで達しているような書き込みや、また執拗に繰り返すことで物理的な危害すら連想させるような書き込みなどは、積極的に摘発して構わないと思う。

 

【解説】
少し細かい話になりますが、刑法上は、「侮辱罪」「名誉毀損罪」「脅迫罪」「強要罪」などは区別されています。
「侮辱罪」に該当する条文は第二百三十一条で、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」となっています(今回の法改正で、「拘留又は科料」の部分に懲役・禁錮・罰金の規定が追加される見通し)。
条文中に「公然と人を侮辱した」とありますが、インターネットやSNSなどの普及により、従来よりもはるかに「公然と」、侮辱的なものも含む様々な意見が人の目に触れやすくなってしまっていると考えられます。
侮辱罪の「基準」や「境界」は、こうした社会の変化も冷静に視野に入れながら、今後も調整されていくことになるはずです。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

TPPとは「環太平洋経済連携協定(環太平洋パートナーシップ協定)」の略称で、これのもとになる協定は、2005年に4か国が署名することでスタートしました。その後、議論が広がることで日本も参加を決めるようになり、2016年に12か国がTPPに署名しました(ただしアメリカは後に離脱)。
TPPは自動車など物品の関税の撤廃を目指すだけでなく、サービスや投資の自由化など幅広い分野にわたる協定です。日本はTPPを含めて21の国、地域と経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)を結んでおり(2021年10月時点)、貿易や投資の自由化など、世界各国・地域との間で幅広い経済関係の強化を図っています。

【問題1】の問2について

上述のように、2016年に一度12か国で署名されたTPPですが、2017年(トランプ大統領の時代)にアメリカが離脱しました。そのためアメリカなしで条約が発効できるよう再度議論がし直され、2018年、新たな条約に11か国が署名し発効となりました。このアメリカ抜きでのTPPは、TPP11もしくはCPTPPと呼ばれます。
RCEPは「地域的な包括的経済連携協定」の略称で、2012年に交渉が開始され、2020年11月15日に調印されました。参加国には日本、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジアのASEAN諸国(カンボジア、シンガポール、タイ、ラオス、ベトナムなど)、そして中国と韓国が名を連ねています。
特に中国が加わっていることに大きな意味があり、中国は約14億の人口、世界第2位のGDP(国内総生産)と経済規模が大きく、近年は輸出、輸入額ともに日本の最大貿易相手国です。2022年1月1日から要件を満たした10か国で発効されるRCEPにより、加盟国間の経済交流と発展が期待されています。

 

【問題2】の問1について

阿蘇山は九州地方の中央部、熊本県阿蘇地方にあり、中岳だけでも複数の噴火口があるなど日本でも規模の大きな火山として知られています。噴火活動によって形成されたカルデラと呼ばれる巨大なくぼ地が広がり、外輪山に囲われたカルデラの内部には多数の人々が生活しています。
近年、付近を震源として2016年4月に発生した熊本地震(最大マグニチュード7.3)の影響で、小規模な噴火が観測されるなどしていました。

【問題2】の問2について

火山の噴火は地震などの自然災害と同様、より正確な予測・予知の実現を目的としながら様々に研究されていますが、的確に噴火の時期を当てることは困難とされています。
噴火の前兆としては、噴火の原因となるマグマが地下数kmあまりのマグマだまりに集まり、地震や微動を起こすことがあります。また地下水の温度上昇や火山ガスの成分の変化なども前兆となります。
しかし、噴火口付近の地下水が原因と思われる水蒸気爆発は、地下水などの水分が蒸発すると一瞬にして約1700倍の体積となるため予測が難しいのです。

【問題2】の問3について

火山が噴火した際、火山灰や火山ガスなどが一体となって斜面を流れ下る火砕流は1000℃を超えることもあるほど高温で、かつ時速も時に100km以上になるなど高速なため、短時間で広い範囲にまで到達し、周囲に甚大な被害をもたらします。記事にある2014年の御嶽山の噴火でも火砕流が発生していました。
なお、今回の噴火で阿蘇山から噴き上がった火山灰は、東側の大分県や宮崎県の一部にまで降り積もったことが確認されています。

 

 

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2021年11月5日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

社会のデジタル化推進のためにこれまで国が導入した制度には、どのようなものがあるだろうか。【資料1】を参考に、制度の名称をあげながら、その内容を説明してみよう。

 

【解答例】
住民一人ひとりに12桁の番号を割り当て、その番号と、住所や生年月日、納めた税金の額といった個人情報を結び付けて一元的に管理する、マイナンバー制度。

 

【解説】
住民一人ひとりに12桁の番号を割り当てるマイナンバー制度は、2016年1月から行政手続きにおける運用が始まりました。個人に割り当てられた番号は基本的に変わることがなく、マイナンバー制度によって様々な情報を一元的に管理することで、行政サービスの効率化が期待できます。デジタル庁の発足にともない、マイナンバー制度の所管もデジタル庁となりました。
また、各人の申請により、顔写真のついたマイナンバーカードを取得することができます。このカードは本人確認書類として利用できるほか、2021年10月からは、システムを導入した病院や薬局において、健康保険証として利用できるようにもなりました。

 

【問2】

【資料2】では、個々人のプライバシーを保護することの重要性が指摘されている。個人情報はどのような場面で流出しうると考えられるか、また、そのような個人情報の流出を防ぐためには、どのようなことに気をつければよいだろうか。あなたの考えたことをまとめてみよう。

 

【解答例】
たとえばSNSに家の近くのお店などで撮った写真を投稿すると、周囲の景色などから撮影場所が特定され、住所という個人情報の流出につながるおそれがある。
これを防ぐためには、SNSの公開範囲を限定するとともに、写真を投稿するときには、映り込んでいる景色にも注意を払う必要があるだろう。

 

【解説】
中高生の多くのみなさんがインターネットを日々利用していることと思いますが、個人情報の取り扱いには細心の注意を払いたいものです。【解答例】では、SNSへの気軽な写真投稿の問題点を指摘しました。最近ではスマートフォン付属のカメラの性能が向上し、周囲の看板や電柱の文字まで読み取れてしまうことがあります。SNSに写真を投稿する際には、その写真を広く一般に公開しても大丈夫かどうか、個人情報につながるものが映り込んでいないかどうか、注意しておく必要があります。
このほか、個人情報が流出するおそれのある場面としては、悪意のあるアプリをダウンロードする際に個人情報を入力してしまった、IDがロックされたという偽メール記載のリンク先で個人情報を入力してしまった、悪意のあるWi-Fiスポットを利用したことで通信内容が盗み取られてしまった、などといった事例が考えられます。

 

【問3】

【資料2】では、デジタル格差の問題についても指摘されている。デジタルを「使えない人」とは、たとえばどのような境遇にある人々だろうか。また、そのような人々に対して、どのような支援が可能だろうか。あなたの考えたことをまとめてみよう。

 

【解答例】
スマートフォンなど情報機器の操作に慣れていない高齢者。地元の自治体が主導して、近くの公民館などで操作方法についての講習会を開く。また、すぐに相談できるように、高齢者にもなじみのある電話での相談窓口も開設しておく。

 

【解説】
インターネットなどの情報技術を活用できるかできないかによって生じる格差は、デジタル格差(デジタルデバイド)と呼ばれています。特に高齢者は、スマートフォンの保有率も低く、情報収集にインターネットを活用できていない人も少なからず見受けられます。
こうした状況を解消するためには、まずスマートフォンを持ってもらうことが重要です。たとえば、東京都渋谷区では2021年9月から、65歳以上の高齢者を対象に、スマートフォンを2年間無料で貸与するという取り組みをスタートさせています。ただ貸与するだけではなく、対象者向けに操作方法を教える講習会を開催したり、コールセンターを設けたりして、スマートフォンの活用を積極的に支援しています。
また、日頃からインターネットを身近なものとして利用している中高生のみなさんが、苦手意識を持っている高齢者の方々に対してスマートフォンの使い方を教えることも、デジタル格差の解消につながる有効な支援となるでしょう。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

岸田文雄首相は自身の強みを、「聞く力」にあるとしています。
長期に及んだ安倍政権のもとでは4年以上にわたり外務大臣を務め上げ、続く菅政権では役職に就かなかったものの、2021年9月に自由民主党内部で行われた総裁選挙に勝利することで、そのまま首相の座に就きました。
一見、エリートコースを歩んできた人のようにも見えますが、大学受験に3年連続で失敗し、東京大学への進学を諦めるなど、挫折も経験してきているようです。

【問題1】の問2について

初代の内閣総理大臣は伊藤博文で、大隈重信は5人目の首相経験者となります。
1868年(明治元年)は従来の江戸幕府に代わり、新たに明治政府が誕生した年ですが、この時にはまだ、内閣制度は出来ていません。
伊藤博文が初代内閣総理大臣になるのは1885年(明治18年)です。ただし大日本帝国憲法(明治憲法)の施行はそれよりも遅い1890年(明治23年)なので、憲法制定よりも早い段階で、内閣制度が存在していたことになります。

 

【問題2】の問1について

「万博」は「万国博覧会」の略称であり、歴史の教科書にも記載されています。「国際博覧会」とも呼ばれます。
戦後の日本で開催された万博では、1970年の「大阪万博」、2005年の「愛知万博(愛・地球博)」が、大規模であり有名です。

【問題2】の問2について

前後の文脈を踏まえて考える読解問題でしたが、正解できたでしょうか。
記事ではドバイ万博は2500万人という、「強気」で「異例」の集客目標を掲げているとされています。選択肢AやCの記述ではなく、Bにある、同じコロナ下で行われた国際的な大イベントである東京五輪・パラリンピックが「ほぼ無観客」だったという記述と対比することで、はじめて2500万人というドバイ万博の集客目標が、「強気」であり、「異例」でもあるという表現と繋がることになります。

【問題2】の問3について

イベントを開催するに当たっての「集客」と「感染対策」は、通常、どちらか一方を立てればもう一方が立たなくなってしまうという、ジレンマの関係にあると考えることができます。東京五輪・パラリンピックでは「感染対策」を優先して「集客」を断念するという、厳しい判断がなされました。

 

 

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2021年10月1日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

【資料1】のイッサ選手は移民の子だったが高校生になる頃、難民としてギリシャで受け入れられた。
この事例について、あなたはどう考えるだろうか。重要なポイントだと思ったことをまとめてみよう。

 

【解答例】
ギリシャの難民受入れによって、アリアさんを励ましていた父の死と故国シリアの激しい内戦とで進退窮まりかけていた母娘は救われた。そうして生活が安定し、アリアさんは障害者の通う高校で差別から解放され、スポーツと出会ったことで人生の支えや自己実現の道を得た。
いまアリアさんは、難民や障害者にとって目標となりうるロールモデルを社会に示しているのだろう。

 

【解説】
アリアさん母娘が難民申請したのは「20歳-16歳」で4年前という計算になります。そのさらに2年前である2015年は、シリア・イラク・アフガニスタンを中心に130万人という膨大な数の難民がEU(欧州連合)加盟国に難民申請を行って「難民危機」と呼ばれた年でした。2011年に始まったシリア内戦は今も反政府武装勢力が残るほどで、2017年にシリアに帰還するという選択肢はありえなかったでしょう。
しかしギリシャも、2009年に始まった財政危機とその後の緊縮財政のため、若年層の失業率が50%という経済状態でした。その一方、EU主導の改革が行われたようで、医療など生活インフラは先進国の水準を保ちました。アリアさん一家のギリシャでの生活は厳しかったはずですが、難民申請で求めた政府の庇護を得て、安定したのでしょう。
そしてアリアさんは、「障害者の通う高校」(日本の特別支援学校高等部に相当?)で幼少期以来の差別から解放され、スポーツに親しむ機会を得て、自らの才を伸ばしていくことになりました。アリアさんは、生まれた国ギリシャに住み続けながら難民になるという特殊例を体現しつつ、障害者にとって目標となりうるロールモデル(手本)を提供するという社会貢献を行っているのです。

 

【問2】

【資料2】のタン・スエさんの記事によると、日本の難民認定は厳しい。それはなぜだと考えられるか。
また、今後のあり方について、あなたの考えたことをまとめてみよう。

 

【解答例】
記事中の「『日本で働きたいだけではないのか』と疑われることもあった」という部分から、難民認定が厳しい理由がうかがえる。アメリカのような移民国家とは反対に、外国人の日本への移住を極力防ごうとしているのではないか。今後は、日本の人口減少を補うために移民を受け入れるようになり、難民認定を厳しくする理由がなくなると予想できる。

 

【解説】
「外国人お断り」のアパートが多いように(国籍を理由に賃貸借契約を拒否することは違法です)、自己主張ではなく互いに慮ることがコミュニケーションの基本にあるこの日本では、外国人との日常的な付き合いを敬遠する人が多数派なのでしょう(アメリカでもトランプ政権では移民を制限する動きが強まりました)。
ところが現在では、保守政党である自民党の中にも、人口減少による国力衰退を防ぐため移民を受け入れようという意見が広がりつつあります。身の危険から逃れてきた難民と就労・生活向上を求めてきた移民とを同一視はできませんが、「外国人お断り」でなくなれば、ことさらに厳しい難民認定を続ける理由もなくなると考えられます。
問2ではこういった消極的な面を考えましたが、その一方で、「困ったときはお互い様」という日本語があります。そうしたレベルからでも、難民を日本に受け入れる積極的な意味を考えてみましょう。
なお、ネット上の東大新聞オンラインの記事「『リトルヤンゴン』を学ぶ ディープでおいしい高田馬場のミャンマー料理店の数々」にタン・スエさんが紹介されていて、彼が20代後半でミャンマーの大学教員だったことが分かりました。読むと理解が深まりますよ。

 

【問3】

古代史から現代史までを振り返ったときに、身の危険から逃れるため日本に来た人々、または日本から脱出した人々について、あなたが知っている事例を挙げてみて、そこで考えたことをまとめてみよう。

 

【解答例】
身の危険から逃れるため日本から脱出した人々の事例は、鎖国時に追放された人々や現代の逃亡犯といった難民とは言えない事例しか思いつかない。日本に来た人々としては、古代の百済滅亡による渡来人や1980年前後のインドシナ難民などといった事例がある。民主国家でない場合、旧政権の崩壊が難民を生みやすいと言えそうだ。

 

【解説】
ベトナム戦争の敗北により、アメリカ側だった旧南ベトナムが1975年に崩壊し、代わって社会主義の旧北ベトナムが南北を統一(1976年)しました。ラオス、カンボジアも同時期に社会主義国となり、これらインドシナ三国の社会主義体制から逃れたインドシナ難民は総数144万人と言われています。
日本は1%弱の1.1万人を受け入れ、記録が残る中では最多の難民受入れでした。さらに、人数は不明ですが、第二次世界大戦後に韓国と社会主義の北朝鮮が成立し、朝鮮戦争などの混乱で日本に逃れた人々は数十万人規模だったと推定されています。その多くは経済的に困窮した「経済難民」だったでしょうが、中には日本統治時代の公務員など「売国奴」として迫害されるのをおそれた人々もいました。
古代にも、新羅による統一(668年)に先立って滅亡した百済・高句麗から万人規模の亡命者があったと考えられます(例えば高句麗人1800人が現在の埼玉県日高市付近に居住)。
これに対し、日本からの亡命の例は少なく、明治初期の琉球処分により滅亡した琉球王国の士族等が清国に亡命した例も知らない人がほとんどでしょう。歴史を振り返ると、民主国家でない場合に旧政権の崩壊が難民を生みやすいと言えそうです。
民主国家となった日本からの難民は考えにくいわけですが、明治・大正・昭和にはハワイ移民や南米移民が盛んで、現在の基準で考えると経済難民に近い例もあったはずです。第二次世界大戦中のアメリカの日系人収容所など、日本人移民やその子孫が迫害に苦しんだ歴史もあります。日本への難民の受入れについて、「困ったときはお互い様」と考えられないものでしょうか。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

児童相談所は、児童福祉法に基づいて各都道府県および政令指定都市に最低1つ以上設置されている行政機関です。
原則18歳未満の子どもに関する相談や通告などに応じ、児童及びその家庭について必要な調査や医学的・心理的等の判定を行って、適切な指導や一時保護などの対応を取ることが主な業務内容になっています。

【問題1】の問2について

児童福祉司は、相談や通告を受けた子どもたちが置かれている環境を調査し、子どもや保護者の話を聞き、医師や保健師、児童心理司などの専門家の協力を得て適切な対策を立てます。読売中高生新聞2021年9月10日号の8面「シゴトビト」で特集されているので、興味がある人はぜひ読んでみてください。
児童指導員は、児童養護施設等の児童福祉施設で子どもたちが心身ともに健全に成長するよう生活指導等のサポートを行います。

 

【問題2】の問1について

イスラム教最大の聖地「メッカ」は、サウジアラビアにあります。ムスリム(イスラム教徒)は一日のうちの決まった時刻にメッカの方向に向かって礼拝を行います。
また、あらゆるムスリムにとってメッカへの巡礼である「ハッジ」は、条件を満たす限り一生に一度は果たすべき義務とされています。

【問題2】の問2について

「タリバン」は現地の言葉で本来は「神学生」を意味する単語で、組織としての「タリバン」は、国外の神学校でイスラム教を学んだ学生たちによって1994年に結成されました。タリバンは1996年に一度はアフガニスタンを支配し、政権を担いましたが、後述のアメリカ同時(多発)テロ(事件)の後、国際テロ組織をかくまっていたことを理由として、アメリカなどの攻撃を受け、2001年にタリバン政権は崩壊しました。

【問題2】の問3について

アメリカ同時テロは、ウサマ・ビンラーディンが率いる国際テロ組織「アル・カーイダ」によって2001年9月11日に実行されました。ビンラーディンは、非イスラム教徒であるアメリカ軍が聖地メッカのあるサウジアラビアに軍を駐留していることに強い怒りを抱いていたとされています。

 

アフガン政権崩壊については、読売中高生新聞2021年8月20日号から3週続けて記事が掲載されています。特に27日号では3ページにわたって特集されているので、あらためて読み直しておくのもいいでしょう。

 

 

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2021年9月3日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

実は、アメリカ社会には記事のように大富豪が宇宙へ行き、宇宙ビジネスを手がけることに、不満を持つ人々もいる。
どのような観点から問題視されているのか、考えてみよう。

 

【解答例】
貧富の格差が拡大している現在のアメリカにおいて、宇宙旅行ビジネスは、富裕層が富裕層相手に手がける超高額ビジネスとして認識されることもあるため、格差の観点から問題視されている。

 

【解説】
今日の世界における格差の問題は深刻で、とりわけアメリカにおける格差は新型コロナウイルス感染症の拡大によって更に拡がったとも指摘されています。
現状において宇宙旅行ビジネスは「富裕層の道楽」のように見られることもあり、例えば記事にもあるリチャード・ブランソン氏の会社での2022年からの一般人向け宇宙旅行計画は、宇宙船を高度80km以上まで飛ばして数分間の無重力体験をするというものですが、その搭乗チケットは1枚につき最大およそ2800万円となっています。

 

【問2】

歴史を見ると宇宙開発は、アメリカが率いる西側陣営と旧ソ連が率いる東側陣営が争った東西冷戦の時代に、それぞれの陣営が競い合う構図で急速に進展した。
宇宙開発で優位に立つことが、各陣営や国家に及ぼすメリットにはどのようなものがあるだろうか。考えられることを述べてみよう。

 

【解答例】
自分たちの思想や体制の正しさを、内外へと分かりやすくアピールするための好材料になること。また、空を超えて宇宙へと進出することで、軍事面において圧倒的優位に立てることなど。

 

【解説】
宇宙開発に限らず、様々なハイテク技術が戦争や国家間対立を契機として急速に進展することは歴史上しばしば見受けられます。
例えば冷戦期、旧ソ連が1957年に人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功、1961年には「地球は青かった」の言葉で知られるガガーリンによる、初の有人宇宙飛行を成し遂げます。一方のアメリカは、1969年に「アポロ11号」によって、史上初めて人類を月面へと送り込むことに成功したのでした。
ちなみに狭義での「宇宙開発競争の歴史」は、これらを含んだ1957~75年頃の出来事を指します。

 

【問3】

人類全般という視点に立つと、宇宙開発が進展することにはどのような意義があるか。
考えられることを述べてみよう。

 

【解答例】
例えば気象予報の精度が増すし、地球に接近する恐れのある隕石などを早期に発見できるようにもなる。飛行機よりも早く地球上の都市と都市を結べるような技術の開発にも繋がるだろう。
また将来的には、有害物質を排出する工場を宇宙へと移設することで地球環境の保全に役立ったり、地球上での廃棄物処理の問題を解決したりするかもしれない。
更に、月や火星への移住という可能性を人類に対して示すことで、人口増加や食糧難、地球環境悪化といった問題の解決に繋がる、選択肢の一つを提供し得るようになるかもしれない。

 

【解説】
「宇宙開発が進展することで人類はどのような影響を受けるのか」という問題に答えていたのは、かつてはSF作品であったと言えます。しかし今日では、解答例に示した事項以外にも、私たちが想像も付かないような角度からの「宇宙開発の意義」が、より具体的に、説得力ある言葉によって、起業家を中心とする人々の口から語られるようにもなってきています。
宇宙開発に関して、何でもかんでも「絵空事」だと言って済ませていられた時代は、とうに過ぎ去っているのかもしれません。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

新型コロナウイルスワクチンの副反応をめぐっては、特にインターネット上を中心として様々なことが言われており、時にはワクチン肯定派・否定派の間で互いの「無知」をけなし合うような事態にまで陥っています。
こうした「混乱」は、情報社会の発達によってむしろ拍車がかかっているようにも見えます。

【問題1】の問2について

新型コロナウイルスワクチンは世界中の製薬メーカーや研究機関などがしのぎを削りながら、極めて短期間で開発を進めてきたものです。
「mRNAワクチン」の「m」とは「メッセンジャー」を意味します。
これまで、基本的に「2回」の接種で抗体は十分に得られるとされてきましたが、「デルタ株」が猛威を振るっている直近の状況下では、「3回目」を打つ「ブースター接種」も世界的に議論されるようになりました。

 

【問題2】の問1について

基本的に、男性の体には「テストステロン」と呼ばれる男性ホルモンが多く分泌されており、それには骨格を大きくし、筋肉量を増やす働きがあります。
「トランスジェンダー女性」が女性競技に参加するためには、この「テストステロン」値が基準を下回っていなければなりませんが、そのようにホルモンの分泌量が減っていたとしても、成長期を男性として過ごした場合には、すでに体格や筋力などの面で女性と差が付いてしまっているという指摘もあります。

【問題2】の問2について

分野に限らず、従来あまり意識されてこなかった性的マイノリティの権利を積極的に認めていくことは、今では世界的な潮流になっています。
ですがスポーツのように、体格や筋力などの面での配慮が必要になる場合も確かに存在しており、議論の必要性が高まっています。

 

 

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2021年8月6日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

【資料1】の円グラフ㋐~㋒を時代順に並べ替え、その順序だと考えた理由を書いてみよう。

 

【解答例】
1990年度が㋑、2012年度が㋐、2019年度が㋒という順。2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故の頃から本格的に再生可能エネルギー(風力や太陽光)による発電が拡大してきたから。また、同事故の影響で後に国内の全原発が運転を停止した後、再稼働が徐々に進んだから。

 

【解説】
東京電力福島第一原発事故があった2011年以降、①再生可能エネルギーで発電された電気の全量買取りを電力会社等に義務づける再生可能エネルギー特別措置法が2011年8月に制定され、特に太陽光の2019年度の発電量は2012年度の約10倍に拡大、②省庁の一部ではない独立した権限をもつ原子力規制委員会が2012年9月に設置され、原発に対する審査基準を厳格化――という二つの大きな変化が起きました。
後者が一因となって、日本の全原発の停止が2013年9月~2015年8月など2回あり、その後の再稼働も、福島第一原発の同型(沸騰水型)ではない加圧水型(関西電力など5社が採用)の10基しかありません。

 

【問2】

【資料2】では温室効果ガスの排出削減が課題だと指摘しているが、日本において、水力発電所ではなくCO2を排出する火力発電所が主流になった理由は何だろうか。
また、再生可能エネルギーにはどのような課題や問題点があるのだろうか。考えてみよう。

 

【解答例】
本州などには発電用ダムの適地が多かったが、高度経済成長期までに大規模な水力発電所の開発がほぼ限界に達し、1960年代には燃料を輸入して都市部で発電する火力発電所が主流となっていった。また、再生可能エネルギーの主力である太陽光発電や風力発電は夜間や無風時に発電できないなど不安定な電源であるため、電力供給を需要に合わせるには火力発電または蓄電設備が不可欠になる。

 

【解説】
大きな河川の山間部は発電用ダムの適地ですが、1963年に完成した富山県の関西電力黒部川第四発電所のダム工事は、峻険な地形のため百人単位の死者があったほどの難工事でした。それは1968年の映画「黒部の太陽」で有名になったものの、他方では、大規模な水力開発が限界にきたことを意味していました。
ただ、近年は前述の再生可能エネルギー特別措置法の対象となる中小水力発電(出力3万kW未満)を地道に開発する動きが見られます。この水力発電や地熱発電、それに火力発電は安定した電源ですが、電力は「供給量=使用量」でないと周波数の不安定や停電を招くので、電力需要に合わせにくい太陽光発電や風力発電の活用には大きな課題があります。
解決策としては、水車やタービンで発電の始動・停止が機動的にできる前述の安定した電源と組み合わせるほか、太陽光発電や風力発電の余剰電力で水素をつくって蓄えるとか、大容量の蓄電池に蓄えるといった開発が進みつつあります。

 

【問3】

【資料3】のように、イギリスやフランスでは強気に石炭火力発電の廃止ができるのに、日本では難しいのは、どういった理由からだろうか。
地理的条件から考えてみよう。

 

【解答例】
イギリスやフランスと違い、日本には太陽光発電や風力発電の設置に適した平地が少なく、大規模な発電所にできる洋上風力発電に適した遠浅の海も少ないほか、イギリスやEU(欧州連合)諸国は国際送電網で結ばれているので電力の過不足を補い合える点も日本と異なる。

 

【解説】
イギリスは石炭(蒸気機関)で産業革命を始めた国ですが、近年は石炭火力発電所を急減させており、発電量に占める石炭火力の割合(2017年)はフランスと同様に数パーセント程度です。しかも、電力の過不足を補い合える国際送電網で結ばれているので、それがない日本と違って発電能力の余裕をたくさん抱える必要がありません。よって、石炭火力発電を再生可能エネルギーに置き換える場合のハードルは、日本(石炭火力の割合30%)よりはるかに低いことになります。
また、平地面積あたりの再生可能エネルギー発電量でみると、日本は世界最大(イギリスの2.6倍、フランスの4.5倍)だそうです。これは、大規模な太陽光・陸上風力発電の適地が日本では残り少なくなりつつあり、これまで以上に立地に工夫を要することを意味します。
平地以外では洋上風力発電が期待されていますが、北海という遠浅の海を利用できるイギリスと違い、日本にはすぐに利用できる適地が少なく(瀬戸内海は交通量が多いのが難点)、台風など強風への耐久性も課題です。そのほか、地熱発電は温泉の枯渇が心配されるなど、再生可能エネルギーは難題山積です。しかし、それらの対策がない訳ではないので、地道に解決策を探る努力を続ける必要があります。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

民法750条は、婚姻に際して夫婦が同姓となることを規定し、それを受けて戸籍法74条1号は、婚姻届に夫婦が称する姓を記載して届けなければならないとしています。

【問題1】の問2について

「両性の平等」は、日本国憲法第14条(両性の差別を禁止)と第24条(婚姻は両性の合意のみに基づいて成立すること、両性の本質的平等を規定)で保障されています。
ちなみに、「幸福追求権」は日本国憲法第13条で、「思想及び良心の自由」は第19条で、「生存権」は第25条で保障されています。それぞれ条文を確認してみましょう。

【問題1】の問3について

現在の民法のもとでは結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が必ず姓を改めなければなりません。しかし、実際には男性の姓を選び女性が姓を改める例が9割を超えます。ところが、女性の社会進出等に伴い、改姓による社会的な不便・不利益を指摘されてきたことなどを背景に、夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を称することを認める「選択的夫婦別姓制度」の導入を求める意見があります。

 

【問題2】の問1について

記事と表の内容を対応させることで正解が得られる問題です。
災害時にどう行動するかは、皆さん全員が日頃から常に意識しておくべき課題です。
それぞれの「警戒レベル」に応じてどう行動すべきか、改めて確認し、ご家族とも話し合っておきましょう。

【問題2】の問2について

2021年5月、内閣府(防災担当)はこれまで掲載表の「レベル4」に相当していた「避難勧告」と「避難指示(緊急)」という区分を廃止し、「避難指示」に一本化しました。
「避難指示」では、指定区域の住民全員が即座に迅速な避難行動を取ることが求められます。
この変更により、「避難勧告」が発令されたものの避難を実際に始めるかどうか迷ってしまう、という状況が回避されることが期待されます。

【問題2】の問3について

「ハザードマップ」は自治体などが作成・公開しているもので、土砂災害や洪水など、その地域特有の災害リスクを確認できます。
国土地理院による「ハザードマップポータルサイト」なども活用しながら、発生するおそれのある災害に対して、その地域の住民としてどう行動していくべきか、日常的に情報収集することで日々考えるようにしていきましょう。

 

 

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2021年7月2日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

4地域に「固有種」が多く誕生するようになったのはなぜだろうか。
【資料1】の記述を参考にまとめてみよう。

 

【解答例】
地殻変動や海面上昇を経て九州から離れた位置に形成された沖縄島や奄美大島などでは、暖かく湿度の高い気候が多様な生物がいる森林を生み、生物が異なる進化を遂げたから。

 

【解説】
問題文で「【資料1】の記述を参考に」と指定されているので、資料から必要な個所を抜き出し、うまくまとめましょう。
具体的には2・3段落目を中心に、「沖縄島・奄美大島形成の過程→『固有種』誕生の過程」の流れで書くとうまくまとまるでしょう。

 

【問2】

2013年に世界遺産となった富士山は、「自然遺産」ではなく「文化遺産」として登録されている。
富士山が「自然遺産」にならなかった理由と、「文化遺産」として登録された理由を調べてまとめてみよう。

 

【解答例】
富士山は当初、「自然遺産」としての登録を目指していたが、ゴミの不法投棄等によって環境が悪化していることなどから、「自然遺産」としての登録は見送られた。
一方で、富士山が「富士講」に代表される日本人の信仰の対象になってきたことや、19世紀前半の浮世絵に描かれた富士山の図像が、近・現代の西洋美術に影響を与えたことなどといった文化的な価値が認められ、「文化遺産」として登録された。

 

【解説】
「自然遺産」としての登録が見送られた理由としては他に、世界の山々と比べると、富士山の形や火山活動などはそれほど珍しくないこと、開発により本来の自然が保たれていないことなどが挙げられています。「富士講」とは富士山信仰の講社のことで、富士山登拝と寄進をおもな目的としています。
ゴッホやモネ、セザンヌなど印象派を代表する画家たちの作品には、浮世絵の富士山からインスピレーションを受けたと思われるものが多数あり、富士山そのものを描いている作品もあります。
なお、読売中高生新聞6月4日号4面では、新たに世界文化遺産に登録される見通しとなった「北海道・北東北の縄文遺産群」の記事に関連して、富士山がなぜ「文化遺産」であるのか簡潔にまとめられています。そちらもぜひ参照してみてください。

 

【問3】

【資料3】に記されているIUCNに要請された4点の対応のうち、1つを選んで自分なりにその対策や措置について考えてみよう。

 

【解答例】
①観光客の受け入れ上限の設定、ガイド同伴の義務化等
②希少種生息地域での自動車の通行規制・速度規制、路上侵入防止柵の設置等
③日常的な河川環境変化の監視体制の強化、外来種(動植物)の駆除等
④森林伐採の制限、植林活動の推進等

 

【解説】
【解答例】では①~④についてそれぞれ2つずつ対策や措置を挙げました。
実際に4地域やそれ以外の場所で行われている事例がほとんどですが、問題文には「自分なりに」とあるので、様々な視点から考えてみてオリジナルの対策や措置を考えてみてください。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

実は、2020年度(2021年3月末まで、前年度比)の実質GDP成長率マイナス4.6%よりも2020年(2020年12月末まで、前年比)の実質GDP成長率-4.7%の方がやや低く、それどころか2009年の実質GDP成長率-5.7%こそが「最悪」でした。
後者は、リーマン・ブラザーズというアメリカ第四の大手証券会社(英語の「investment bank」から投資銀行ともいう)の2008年9月の経営破綻がショックとなって、同社と同様に危険な金融商品を保有していた欧米の多数の金融機関の損失が拡大したり、世界的な保険会社AIGの経営破綻を防ぐため同社が一時国有化されたりといった「世界金融危機」へと拡大したことの影響でした。
日本の金融機関は危険な金融商品の保有が少なく事なきを得たのですが、アメリカの輸入が急減したため、対米輸出で稼いでいた多くの日本企業は売上げ急減による利益の激減または赤字転落に見舞われました。
そして、工場の生産激減などで派遣労働者が派遣契約を打ち切られる「雇い止め」が多発して社会問題になるといった状況が2009年まで続き、「就職氷河期」がピークに達しました。

【問題1】の問2について

商工会議所の簿記検定試験などであればもっと細かく考えるべきなのでしょうが、ざっと説明します。
例えばコーヒー店の経営で、事業主が負担する費用には人件費(従業員の賃金や事業主負担の社会保険料など福利厚生費)も含まれ、「売上高-すべての費用」が事業主の利益となります。
これに対して、GDPに算入される「付加価値」は、コーヒー店が他の企業から仕入れた豆などの原材料や水道光熱などの購入費を売上高から差し引いた「あら」からなります。
つまり人件費は、その事業に動員された労働への報酬として労働者に還元され、事業主の利益などとともに付加価値、ひいてはGDPに算入されます(正確には借りた不動産の賃借料なども付加価値に含みますが、ここでは細かいことを追究しません)。
あなたがコーヒー店を経営するなら、人件費を含む粗利に注目する必要があるのです(製造業などの「粗利」は人件費を除くそうです、簿記はややこしいですね)。

【問題1】の問3について

中国など諸外国ではロックダウン(都市封鎖)という、人々の行動を法的処罰により厳格に制限する政策が採られましたが、日本では主として知事から住民への自粛要請が強いレベルの「緊急事態宣言」とそれに次ぐ「まん延防止等重点措置」にとどまっています。
緊急事態宣言が何回も延長などされて分かりにくくなりましたが、1回目は2020年4月7日~5月25日解除、その後は旅行や外食を奨励した「Go To キャンペーン」を挟んで、2回目は2021年1月7日~3月18日終了、そして3回目は2021年4月23日~7月11日終了見込み(沖縄県)という状況です。
諸外国と違い日本政府の「自粛要請」は刑罰を伴わない(前科にならない行政罰が東京都の飲食店などに適用されたのみ)緩いものですが、国民の協力ぶりはかなり行き届いており、旅行などのサービス消費が激減したのです。

 

【問題2】の問1について

現行の制度においては、「産前休業」と「産後休業」を合わせた休業が「産休」と呼ばれています。
特に「産後休業」について、出産の翌日から8週間は、本人が申請して医師に認められた場合を除き、就業できないと定められています。

【問題2】の問2について

「育児休業(育休)」の制度においては、基本的に子どもが1歳になるまでの間、男性(夫)も含めて育児のために休業することが認められています。
「産休」も「育休」も、多くの皆さんにとってはまだまだ馴染みの薄い話題でしょう。
ですが少子化をこのまま放置しておくと、日本社会のシステムそのものが将来的に瓦解しかねないと危惧されるようになってきています。
そのため、現状より少しでも子どもを「生みやすい」「育てやすい」環境を社会全体として整えていくことが、今の日本では喫緊の課題とされているのです。

【問題2】の問3について

男性の「育児休業(育休)」取得率は、2010年度から2019年度にかけて、大幅に改善されたように見えます。
ですが「7.48」%という数値はまだまだ低く、2025年の政府目標である「30」%にどう近付けていくのか、政府だけでなく、各企業、各個人の対応も問われています。

 

 

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2021年6月4日号

A面「ワークシート」の解答ポイント

【問1】

下線部①に関連して、日本が特に遅れていると言われる、政治分野への女性の進出(男女共同参画)を促すための対策について調べ、自分の考えも述べてみよう。

 

【解答例】
世界的には、議会の議席数か選挙の候補者数で女性の割合に規制や目標値を設けるクオータ制がよく採用されている。
日本では男女比の目標を定めるなど政党に自主的な努力を求める候補者男女均等法(政治分野における男女共同参画推進法)が2018年に制定・施行されたばかり。
政治家の入口になりやすい地方議員については、育児と両立しやすい環境整備が必須だろう。

 

【解説】
担当する筆者がインターネット検索で「政治分野への女性の進出 男女共同参画」と入力したら、内閣府男女共同参画局のウェブページが最上に表示されました。
同局の2020年3月作成のパンフレット『諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組』は全16ページとコンパクトな割に内容が充実していて勉強になります。
ただし政党が主力となる国政の話題が多かったので、さらに調べて、政党に所属していない若い世代などが多い地方議員の記事も読んでみました。
その中に「子がまだ小さいので育児と議員活動の両立が悩ましい」といった声があり、切実だと思いました。

 

【問2】

下線部②「最低賃金の引き上げ」には、企業や雇用へのマイナス面を心配する声もある。なぜマイナスになるのか、理由を述べてみよう。

 

【解答例】
最低賃金の引き上げが大きいと、アルバイトやパートの労働者が多い小売業・サービス業などは特に人件費が増大しやすいだろう。
利益が薄かった小規模企業が廃業するなどの形で低賃金労働者の失業が増えれば、最低賃金の引き上げでかえって所得格差を広げてしまう可能性がある。

 

【解説】
この問題は経済学者たちが競って研究しているところなので、例えば「最低賃金の引き上げは必然的に失業を増やす」などといった確定的な結論は出ていません。
あなたが店舗や事業を経営していると想定し、アルバイトの高校生だけでなく成人の労働者も雇っていると想像すれば、自然に解答例のような考えが浮かんでくるのではないでしょうか。
それにしても、円高ドル安の1ドル=100円と仮定しても、アメリカが目標とする最低時給1,500円と、日本で当面の目標とされている最低時給1,000円(全国平均)の差から、日米で家賃その他の物価水準の違いが大きくなってきたことが分かりますね。

 

【問3】

下線部③「中国の人権侵害」の具体的な事例として、どんなものが挙げられるだろうか。調べてまとめてみよう。

 

【解答例】
特に深刻な問題として、多くがイスラーム教徒であるウイグル人の分離独立運動を警戒して、中国政府が拷問も用いる弾圧や女性への強制不妊手術といった「ジェノサイド」を行っているという。
これに対して中国政府は、それらは事実無根のウソであり、不当な内政干渉であって、「中国の封じ込め」にウイグル問題を利用しようとしていると反論している。

 

【解説】
かつては自由だった香港の現状は中国本土並みに近づいていますが、それより深刻そうなのが新疆ウイグル自治区の問題です。
この問題の要点は、例えば読売新聞2021年3月29日付朝刊の社説「ウイグル族弾圧 中国は国際的調査受け入れよ」を読むと全体像が見えてきます。
ただ、中国政府が全面否定しているほか、ウイグル人と文化的に近いトルコからは野党政治家による批判を除き政府からの批判が聞こえてこないし、アメリカ政府が根拠を示さず「中国政府によるジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定したことが批判されるなど、不透明な状況です。社説のように国際的調査が望まれます。

 

B面「テスト形式」の解答ポイント

【問題1】の問1について

アメリカでは2012~2013年に、黒人の高校生を射殺した自警団員の白人男性が、裁判で「無罪」になる出来事があり社会問題化しました。
一方、今回の評決では「有罪」とされたことで、「歴史的な判断」だという評価も出たのです。

【問題1】の問2について

日本の裁判員制度は近年の大学入試問題などでも頻出のテーマです。
下の表は、日本の裁判員制度、アメリカの陪審制度、ドイツの参審制度を簡単にまとめたもの。
日本の制度は、他国の制度を大いに参考にして作られました。(アメリカは州によって制度が表と異なる場合もあり、特に死刑を科すか否かの判断は陪審が行う州もあります。)

  参加市民の任期 裁判官が評議に
加わるか否か
参加市民が有罪・無罪を
判断するか否か
参加市民が量刑を
判断するか否か
日本の
裁判員制度
事件ごと 加わる 判断する 判断する
アメリカの
陪審制度
事件ごと 加わらない 判断する 判断しない
ドイツの
参審制度
一定年数 加わる 判断する 判断する

【問題1】の問3について

英単語「matter」はここでは自動詞。「問題だ」「重大だ」などの意味になります。
なお名詞としては、「問題」「物事」「物質」など複数の意味があります。

 

【問題2】の問1について

日本神話において、男神「イザナギ(伊弉諾・伊邪那岐)」は女神「イザナミ(伊弉冉・伊邪那美)」と協働して「国生み」を行います。
淡路島は、一連の「島生み」の過程で最初に生み出された島であると、『古事記』などに記されています。

【問題2】の問2について

与えられた文章の記述だけを頼りに正解を考える読解型の問題は、近年、重要視されるようになっています。
この設問も、文章の記述だけから正解を絞ることができます。

 

 

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