2018年度実施「大学入学共通テスト」試行調査(プレテスト)分析
(倫理)

2018.12.03

2018年度実施「大学入学共通テスト」試行調査で出題された問題について、各科目ごと、出題における特徴的な点、設問ごとの分析などを公開しています。

プレテスト分析 倫理

 

試験概要

配点 100点
試験時間 60分

 

出題における特徴的な点(現行のセンター試験との比較)

  • 従来のセンター試験よりも資料文や図版が多く掲載されており、明らかに読解・解釈の要素が強くなっている(選択肢文に組み込まれたため、出典のない資料文もある)。

  • 正解が複数ある問題など、形式として新しい設問が多い。

  • 必要な「倫理」の知識の総量は減少すると見られるが、一部に従来ほとんど扱われなかった知識を扱う設問もある。

  • 大問数は従来のセンター試験通り四つだが、第4問が課題探究に特化するなど、取り扱う分野の編成が変わっている。

 

第1問 (人間・心理・源流思想)

  • 第1問は、A~Cの三つの本文を題材に、青年期・心理学・源流思想分野の知識も時に踏まえながら、読解していく問題が中心。
    読解の要素がかなり入ってきており、純粋に本文だけから解釈するのか、あるいは知識を踏まえるのか、判断が難しいかも知れない。

  • Aの本文は孫と祖父母による三つの会話。
    問1は図版2点の解釈問題(ただし①の選択肢文が曖昧)。
    問2はマズローの欲求段階説を踏まえ適切な事例を選ぶ。
    問3は提示された発達心理学上の段階説に合致する事例を選ぶ。

  • Bはアリストテレスの「徳」をめぐる本文が題材。
    問4は古代ギリシアの哲学者を扱った知識問題。
    問5はアリストテレス哲学の知識も踏まえ空欄に入る語を選ぶ新傾向の読解問題だが、資料文が日本語として読みにくく、「正しい」と「真である」がどう違うのかの説明もない。
    問6は「技術」と「思慮」が区別された事例を選ぶ。

  • Cは授業での板書が本文。
    問7は新傾向で、(1)で四つの語句から任意に一つ選び、原典資料を含めたそれに対応する文章を(2)~(4)でそれぞれ選んでいき、最後まで対応が合っていれば正解となる。
    問8はユダヤ・キリスト・イスラーム教に共通した特徴を八つの語句から全て選び、過不足なく選べていれば正解となる。
    問9は(1)で「愛」をめぐる考えを任意に一つ選んだ上で、その立場と合致する(2)の資料文を選べていれば正解となる。
    問10は『荘子』「渾沌」の寓話を題材に、会話文の流れに沿いその解釈をする。

 

第2問 (日本の思想の特質)

  • 第2問は、A・B二つの本文を題材とした、日本思想史分野からの出題。ほとんどが知識問題。

  • Aの本文は「日本の宗教美術」をテーマとした、那智の滝の絵と胎蔵界曼荼羅という図版二点、および、統計資料二点をめぐる会話文。
    問1は四つの選択肢文から日本の神の特徴を二つ選ぶ穴埋め問題。
    問2では上座部仏教がタイなど具体的にどの国に広まったのかを知っている必要があり、「倫理」では珍しい。
    問3は密教との関わりを踏まえ曼荼羅の説明を選ぶ。
    問4は「会話文の趣旨を踏まえ」とあるが、実際には単なる資料の解読問題(資料Yの「救い」は何を指すのか、説明されていない)。

  • Bには中身のある本文がないが、問5~問7全てに写真もしくは資料文がある。
    問5では壁面に向かい坐禅を組む僧侶の写真が載っているが、道元の思想と言葉を選ぶ知識問題。
    問6は資料文の著者が林羅山であることを読み取る。
    問7は和辻哲郎『倫理学』の資料を読んだ上で、その立場と合致する文章を一つ選ぶ。

 

第3問 (西洋近現代の思想や芸術)

  • 第3問はそれぞれ授業のレポートであるA~Cの文章を題材とした、主に西洋近現代思想史からの出題。絵画の解釈もある。

  • Aの本文は自己の在り方をめぐるレポート。
    問1は、ピコ・デラ・ミランドラの著作の空欄に入る語句が「自由意志」だと特定した上で、それを正しく用いている文を、思想史を扱った四つの内から二つ選ぶ。
    問2は「倫理」には珍しい、提示された三つの絵画それぞれの正しい解釈文を選ぶ問題で、新しい技術の登場が芸術に及ぼした影響が背景になっている。
    問3はメルロ=ポンティ『知覚の現象学』の一節を読んだ上で、書かれている内容に合致しない事例を選ぶ。

  • Bの本文は自己をめぐる哲学史上の意見の対立についてのレポート。
    問4は本文の流れを踏まえ、デカルトの名とその立場を表す言葉、同じくヒュームとその言葉を選ぶ。
    問5は本文中の空欄に入る発言を選ぶ読解問題で、四人の哲学者の見解が各選択肢で扱われる。

  • Cの本文はアーレントの思想をまとめたレポート。
    問6は、本文中の三箇所の空欄に入る言葉の組合せを、文脈と思想史の知識を踏まえて選ぶ。

 

第4問 (現代社会の倫理的課題)

  • 第4問は、「倫理」の学習における課題探究がテーマで、A・Bの本文いずれもロックの思想を扱っている。いわゆる思考力や、現代倫理分野の知識が問われる。

  • Aの本文はロックの思想をめぐる大まかなメモ。
    問1は四つの選択肢文を、ロックの社会契約説の流れに沿うように論理的に並び替える問題で、新傾向。
    問2は生命倫理分野の問題だが、法整備の状況も扱うのでやや難しい。

  • Bの本文はロックの所有権の考えをめぐる疑問を展開した発表原稿。
    問3は、本文の空欄に入る身体観として適切なものを選ぶ。
    問4も空欄補充問題だが、実際には「パターナリズム」の語が理解できているかが問われている。
    問5は生徒Yによる発言をめぐる解釈問題で、Yの立場が出て来る理由として正しい文を、五つの内から二つ選ぶ。

 

対策としてどのような学習が効果的か

  • 資料や図版、会話文などを踏まえての読解・解釈問題が多いが、「倫理」で学習する思想史の知識を踏まえた上での読解問題もかなりある。まずは「倫理」の基礎的な知識を押さえること。その際、「この思想家であれば、この問題ではこういう立場になるだろう」と、常にどのように応用できるかを考えることが肝要。

  • 「倫理」の試験で扱われる思想的対立にはパターンがあり、その数も限られている。「現代社会」の試験も参考にパターンを早期に押さえると、残りはそれがどう選択肢文などで表現されるかを見極めるだけであるから、有利に対策が打てる。

  • 「倫理」で扱う各事項に関連した資料には、資料集などを駆使し、できるだけ多く目を通しておくこと。その資料文の著者が誰であるか知っているだけで、有利に解答できる場合がある(今回の試行調査で出された資料文には読みにくいものが多いが、そうした文章に慣れておくことも必要)。

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