職員対談2
1. 2025年度の新課程入試について
今後の予測
木戸:先ほど土生主幹から、次年度は難化が予想されるのではという話がありましたが、国語でいえばどのような部分で問題を難しくしていくのでしょうか?
土生:選択肢を少し微妙にするとか、本文の難易度をあげるとかですかね。第3問でグラフや資料の数を増やすという方法も考えられます。入試問題全般を見ると、小論文に関しては国公立大学、私立大学ともに複数の統計資料や表を関連づけて考える問題が増えていました。
小論文は一定の長さの文章を読ませる課題文型と短文でテーマのみを与えるテーマ型が全体の7割程度を占めており、課題文型では英語の文章を用いる問題も国公立大学を中心に増える傾向にあります。英文の内容を日本語で要約させるなどの問題も見られ、これは複数テキストの一種といえるかもしれません。
木戸:複数テキストの問題を、国公立大学の2次試験で出題するのは共通テストがそうしているからですか?
土生:おそらく新しい学習指導要領の内容に即してそうなっているのですが、もう一つ国際的な学力を比較するテスト「PISA」の影響もあると思います。PISAではグラフや表、地図や写真などもテキストとして扱われており今の学習指導要領にはこのPISAに対応する学力を養成しようという意図があると考えられます。それが共通テストにも、国公立大学の2次試験や小論文にも同時並行的に表れているということではないでしょうか。
木戸:小論文において英文型の課題が国公立大学で増えているというのは、今後日本が国際的に競争できるようにとか、研究するうえでも論文は英語が多いので引用するための力を見たいといった意識が大学にもあって、入試でも問われているように感じる事案ですね。

土生:そうですね、それに加えて実用的な英語の出題が増えて、以前のような文学的な評論文は少なくなっています。たとえば、スーパーで食品を買おうとするときに商品にスマホをかざすと、その商品がこの売り場に来るまでにどのくらいのエネルギーやコストを使っているのか表示するようなアプリがあります。それを紹介する英文記事が出題され、その内容を要約するというような問題もありました。現実の社会で英語が使えるかどうかを見る問題が増えているという印象です。英語自体がそれほど難しいわけではないのですが、日頃から社会的な問題に関心を持っているかということもあわせて問われているように思います。
むしろ国語よりも変化が大きいのは地歴公民や英語ではないでしょうか。今の英語の模擬試験では、問題文の内容にあったイラストを選ばせるというような問題が増えています。そのイラストを細かく修正したり、書き直したりという作業があるようで、それを見ていると、問題の作り方もずいぶん変わったなと思いますね。
国語はまだ言葉の世界で収まっているので、他の科目と比べて変化は少ないと思います。また、数学や理科では問題文の分量が増えて、読解力がないと対応できないという話をよく聞きます。全体的に国語以外の科目でも国語力が求められる問題が増えているのではないでしょうか。それにしてもイラストの修正作業などは傍から見ても大変だなという気がします。
木戸:作問の本質ではない気がしますね…。イラストのことを議論するくらいならもっと本質的なところに時間をかけたらいいのにと思いますが、共通テストにイラストや図などが出てくる以上、教材や模擬試験にそういった問題をいれるよう配慮しないといけないですもんね。
共通テストのイラストは毎年話題になりますよね。実は、共通テストの問題評価・分析委員会のコメントで、そういう余計な思考を受験生に強いるような作問はやめてほしいといった意見が出ていたこともあります。
土生:私も以前講師の方とお話ししたときに、共通テストの問題が本質から少しずれているんじゃないかということを言われたことがあります。現在の傾向は、科目の本質をシンプルに問うという方向から、むしろ実用性を重視する方向へと変化しつつあるといえるかもしれません。
木戸:大学で求められる学びのスキルは、腰を据えて何か文献を読む、それを理解して他の文献や資料と繋げて自分はどう考えるかを形にしていくことだと思うんです。
そういうスキルを持っているかが従来の入試では試されていたと思いますが、共通テストは短時間でどれだけ情報処理できるかが特に重視されているように感じます。
大学で研究を遂行できるかをそれだけで測るというのも、また違うのだろうなって気がしますね。
土生:共通テストは高校で学ぶべき基礎的な知識や技能を確認することが目的ですが、現在はそのなかに実用性やリテラシーが入り込んでいるという印象があります。受験生はそれらに対応するトレーニングが大変なんじゃないでしょうか。

木戸:とある大学で基礎学力重視の学校推薦型選抜が導入されましたが、それは従来の学校推薦型だと入学者の学力が低かったため、大学に入りたいという熱意と学力をきちんと持っている人を獲得するために始めたとお聞きしました。文部科学省の入学者選抜実施要項には、「学力を測れるテストをしてください」とありますが、それでもまだ測り切れていない入試があって、入学しても勉強についていけないがために休学や中退する人が出てきています。大学で学ぶ以上、学力は避けては通れないですし、高校で3年間学んだ成果を発揮できるような入試の仕組みづくりをしてほしいという声は全国の高校の先生方からもあるんですよね。
今すぐに変えることはできないかもしれないですが、もしかすると今後新しい形の入試が生まれてくるのではないかと考えています。